第12話「英雄が望んだ世界」
勇者召喚という最大の呪縛から解き放たれ、世界は大きな変革の時代を迎えた。
神々の祭壇が破壊された影響は、絶大だった。
歪んでいた魔力の流れが安定し、それによって凶暴化していた魔物たちも、次第に穏やかな性質を取り戻していった。
人間と魔族の間にあった長年の対立も、その根本的な原因であった勇者召喚システムが消滅したことで、リリアたちの尽力により、雪解けのように和解への道を歩み始めていた。
そして、佐藤拓海の名は、世界を歪んだ理から解放した「創世の英雄」として、歴史に深く刻まれることになる。
人々は彼を新しい王に、と望んだ。
しかし、彼はその全てを固辞した。
「俺には王なんて柄じゃない。それに、俺が望んだのは、誰か一人が支配する世界じゃないからな」
彼は王位や名声には一切興味を示さず、一人のSランク冒険者として、仲間たちと共に、新しい世界の復興に力を尽くすことを選んだ。
彼が望んだのは、誰かが誰かの犠牲の上に成り立つ歪な世界ではなかった。
人間も、エルフも、獣人も、そして魔族さえも、全ての種族が手を取り合って生きていける世界。
それこそが、彼が【創世の模倣】で描いた未来図だった。
彼の作り出した新しい魔法や剣技は、新たな技術体系として世界中に広められた。
【細胞再生魔法】は、医療の分野に革命をもたらし、これまで不治の病とされてきた多くの病から人々を救った。
【絶空の剣技】の理論は、騎士たちの剣術に取り入れられ、護身の技術として体系化された。
彼がコレクションし、改良した無数のスキルは、人々の生活を豊かにするための様々な技術へと応用され、世界はかつてないほどの速さで発展していく。
これは、無能の烙印を押され、絶望の淵へと追放された一人の少年が、誰にも真似することのできない唯一無二の英雄となり、自らの手で本当に望む世界を創り上げた、始まりの物語である。
彼の戦いは終わった。
しかし、彼が創った新しい世界での物語は、まだ始まったばかりなのだ。
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