第10話「決戦、神々の祭壇」

 真実を知った僕たちの目的は、一つに定まった。

 この世界を歪める根源、勇者召喚の儀式が行われる王城の地下深くに存在する「神々の祭壇」を破壊すること。

 王都へ向かう道中、僕たちの前に意外な人物が現れた。

 魔王軍幹部のリリアだ。


「やはり、真実にたどり着きましたのね」

「あんたのおかげでな。俺は、あの祭壇を破壊する。あんたも来るか?」

「ええ。それが、我が主である魔王様の悲願でもありますから」


 力強い仲間が加わった。

 だが、驚きはそれだけではなかった。

 王都に到着すると、そこにはフードを目深に被った白石莉子が待っていた。


「佐藤くん……!」

「白石……なぜここに」

「あなたに治癒魔法を授けられた後、私も独自に調べたの。勇者召喚の矛盾点を……そして、真実にたどり着いた。私は、取り返しのつかない罪を犯した。だから、せめて償いがしたい。私を、連れて行ってください!」


 彼女の瞳には、強い決意が宿っていた。

 もはや、僕が知る気弱な聖女ではなかった。

 僕は黙ってうなずいた。

 今の彼女は、信頼できる戦力だ。

 僕、エリアーナ、ガルド、リリア、そして莉子。

 奇妙な混成パーティは、王城へと乗り込んだ。

 祭壇へと続く道で、僕たちの前に立ちはだかったのは、呪いから回復した勇者・東堂克也と、彼が率いる王国騎士団だった。


「佐藤! 貴様、魔族と手を組んだのか! どこまで落ちぶれたんだ!」


 彼はまだ、王国の正義を信じている。

 真実を知らない彼らを、説得する言葉を僕は持たなかった。


「道を開けろ、東堂。俺はお前らと戦いに来たんじゃない」

「問答無用! 裏切り者には、この聖剣で裁きを下す!」


 悲しい戦いが始まった。

 だが、もはや僕たちの間には、絶望的なまでの実力差が存在していた。


「うおおお!」


 切りかかってくる東堂の聖剣を、僕は素手で受け止める。

 ゴーレムから模倣した【絶対防御結界】を、手のひらサイズに圧縮して展開しただけだ。


「なっ!?」

「お前の剣は、まだそんなものか」


 僕は、彼が振るう聖剣の剣技を【完全模倣・改】する。

 そして、その場で欠点と改善点を彼に叩きつけた。


「踏み込みが甘い!腰の回転が足りない!聖剣の力に頼りすぎだ!」


 僕が放った【絶空の剣技】の衝撃波だけで、東堂は聖剣ごと吹き飛ばされる。

 他のクラスメイトたちも同様だった。

 彼らの切り札であるスキルは、僕にとっては全て既知の力だ。

 僕は彼らのスキルを次々と模倣し、改良し、上位互換の力で無力化していく。


「空間魔法か。だが、座標の固定が不安定だ。こう使うんだよ、【次元跳躍(ディメンション・リープ)】」

「その召喚術は、魔力効率が悪すぎる。【無限召喚(サモン・エタニティ)】なら、一体で軍隊に匹敵する」


 僕は、誰一人殺さなかった。

 ただ、彼らの心を折るのに十分な、圧倒的な力の差を見せつけただけだ。

 次々と倒れていく仲間たちを見て、東堂は膝から崩れ落ちた。


「なぜだ……なぜ、お前がそこまで強いんだ……。俺は、勇者のはずじゃ……」

「お前はただ、システムに選ばれただけだ。俺は、俺自身の力でここまで来た。それだけの違いだよ」


 僕は彼に背を向け、祭壇へと続く扉を開ける。


「東堂、もし知りたければ、お前自身の目で確かめろ。お前が信じてきた正義の、本当の姿をな」


 扉の向こうには、禍々しいほどの魔力を放つ、巨大な祭壇が鎮座していた。

 これが、全ての元凶。

 僕たちは、最後の戦いに挑むべく、ゆっくりと足を踏み入れた。

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