将軍の陰陽師は今宵もため息をつく

七星 葉月

プロローグ

 ひらり

 白い花びらがひとつ。

 ひらり

 白い花びらがもうひとつ。

 幾重にも降り重なった白い花びらの上に、紅い花がぽとりと落ちた。


 またこの夢だ。

 いや、夢ではない。

 これは現実うつつだ。

 鈍色にびいろの空から絶え間なく落ちてくる牡丹雪。

 むせかえる血の臭い。

 水墨画の世界に広がった紅色が、目に痛いほど焼き付いて離れない。

 夢で見たのに。

 知っていたのに。

 僕は、止められなかった…。


 安政七年旧暦三月三日に起きたこの事件を、人は後に桜田門外の変と呼んだ。


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