第2話 せいすい と タール ・・の差(-_-;)
「じゃあこれまた処理をしておいてくれないか?。」
シルバーの眼鏡が印象的・・・
ミッチ・レイトンは爽やかな微笑を部下に投げ
書類を手渡した・・・
やり手で行動家の34歳。
資本主義の国でベスト5の会社に位置するメナスインダストリコーポの
開発課課長・・・・。
カレッジ卒業後、最初の内は報われない小さな企業の一角に席をおいていたがある日・・・?
取引を受け持った先の上司に気に入られて運良くヘッドハンティングされたのが幸運への第一歩だった。
成績優秀で人付き合いはよく、上司からの受けも良かったミッチは瞬く間もなく出世街道をひた走る事となる。
企画書が大当たりして、今所属している開発課のポストをもらったのがほぼ一年前の今日であった・・・・。
結婚は2年ほど前に済ませた・・・・・
家に帰れば可愛い妻がミッチの心を癒してくれる
妻も元はこの会社のエリート社員である
主婦だがトップ企業のコンサルタントの仕事をこなしたり、ミッチの右腕となってくれたりもしてくれる。
ノートパソコンの画面に映る仕事の内容を見ながら、今度の休暇は何をしようかと考えてみた。
そういえば買い物に付き合ってくれと言っていたかな・・・・・
デスクの上のポートレートから妻の柔らかな声と思いが伝わってくる気がした。
苦笑いして外を眺めた・・・・・
初秋の住んだ空の色がミッチの心をすがすがしい気分にさせてくれる。
後で久々に散歩でもしようかな・・・?
再びマウスをクリック・・・
仕事に戻っていく・・・
にぎやかな夜の歓楽街・・・・・
喧騒と光にごった返す通りの中に一人だけ浮いた存在の俺がいる。
夜気は冷え・・そして・・・・
ソノ明かりは疎ましい・・・・
今日も一日無駄にしたのかな・・・・・?
自己嫌悪はとっくの昔に溝に捨ててしまったから何も感じない。
ただひとつ強いて言うなら・・・・・。
俺の力の無さを哀れんでくれるやつが居てくれたら、俺はそいつに一杯おごってやりたい気分だが。
もともと一匹狼で通っていた俺がいまさらこんなことを思う自分が笑える・・・・。
これが現実なんだから仕方ないがな・・・・・。
死んじまうのかな・・・・?このまま・・・・。
ショボイ人生にさよならか・・・・それもいいだろ。
昔は自分の反面がクダラナイ説教を延々と耳元で垂れ流していたもんだったが今じゃそれすら聞こえてこやしない。
これが俺なんだという思いがいつの間にか良心というものを殺しちまったんだろう。
それもいいさ・・・・。
もうつまらない感情に囚われるのは沢山だ。
だが・・・・。
死ぬ前に遣り残したことを済ませるのも悪くはない・・・・。
コートの内側から取り出した古ぼけた一枚の写真。
「見つけないと気が済まない・・・。」
先ほどBARで飲んだ水割りが効いてきたようで何だか足元がふらついた。
ショップの窓明かりやネオンが閃く雑踏の中に男は消えていく。
「お前にはほんとに一本採られた気分だよ・・・・。
このまま大物狙いの路線なのか。」
リッツマンは水割りを飲みながら隣のミッチに話しかけた。
「まあな・・・・。だが半分は運なのかもしれないね・・・・。」
酔いに任せて豪気に言いながらピーナッツを口に入れた。
こうして同期と久しく話すのもずいぶん久しぶりなのかもしれない。
リッツマンとは学生時代のときからの知り合いだ。
卒業後彼はコネを利用してミッチが最初に勤めた会社よりも
上のグレードの会社に籍を置くことに成功していたのだ。
だが彼はのんびりとした性格なのでそれほど出世に野心を見せて
遮二無二働こうとはしなかった。
だからなんとなくミッチはそんな彼ののんびりとした考えに惹かれてこうして
長い付き合いを続けているわけなのである。
「俺もお前の会社に行こうかな・・・。
なんだかこのごろ風当たりが厳しくなってきてさー・・・・。」
「何言ってる・・・・。そう考える前にその性格を直したらどうなんだ。」
溜息交じりの愚痴をこぼしたリッツマンにミッチは苦笑いして釘をさした。
リッツマンも一本とられたというような思いを顔に出して笑う・・・・・。
グラスのウィスキーがなくなったのでカウンター越しの
バーテンに2杯目を注文した。
それから3杯目のグラスが空になった頃・・・・・・
リッツマンは先に帰るといってBARを出て行った・・・
疲れもたまっているのかミッチは不覚にもカウンターの上で
眠り込みそうになるのを知る。
バーテンに揺り動かされて目を覚ましたミッチは、カードで支払いを済ませると冷えた夜の街路へ出た。
外はまだ仕事でたまったストレスを晴らそうとする人達の活気があふれていた。
ロレックスの時計に目をやるとまだ11時を少し過ぎているところ・・・・。
大きく伸びをして冷たい夜気を吸い込んでみると何だか目がさえて来た・・・・。
「さてと帰るとするか。」
・・・・・右足の下に何か硬い物を踏んづけたような感触が・・・・・
なんだろう・・・・・?右足をどけてみると・・・・
何のことはない、女性が落として行ったらしい口紅が転がっていた。
ミッチはそれを右手で拾い上げると、一回BARの中に戻り店の前に転がっていたと言ってバーテンに口紅を預けてから
通りでタクシーを拾い、我が家のあるブロックの番地をドライバーに言って後部座席に深く座り込んだ。
タクシーの揺れが再び眠気を呼ぶ・・・・
いい気持ちになりながら、ふと考え事をしてみる。
「車があったらやっぱり便利だよな・・・・。今年中にマイカーを購入しようか。」
昔から突発的に物事を考えて実行するのがミッチのモットーである・・・・。
だがもうかれこれ車の運転をしないようになって5年ほどになるのだが・・・・・。
休みの日に気晴らしに乗り回そうと2年前に買った大型スクーターでとりあえず用事を済ませてはいるが、妻と一緒に
たまに買い物に出かけたときなどは、やはり便利な足がほしいと思うことが多々ある。
(そう言えば昔大きな四駆を借金してまで乗り回していたことがあったな・・・・・・。)
その車はかれこれ4年ほど乗り回したころ、物心が離れ始めて売りに出してしまったのだが・・・。
家からの仕送りと、アルバイトで何とか生活をしていた学生時代の思い出の車だったことをふと思い出し懐かしく感じた。
「あの車でよくあちこち出かけたものだったなぁ・・・・・。」
思わず口に出た言葉にドライバーは口を挟む。
「ドライブなさるんですかお客さん・・・・?。」
「ああ若いころにね。」
苦笑いして足を組みながら返した。
「私はいつもドライブですよ。1日中車に乗ってるともう休みのときなんかは
車見るのも嫌になっちまいますがね。」
ひげを蓄えたドライバーは笑いながらすいかけのタバコを吸った。
「私はもう長いことペーパードライバーなんですよ・・。
良かったら車の講習してくれませんかね。」
ミッチが冗談半分に言うとドライバーは笑いながら、ああいいぜ・・・・。と冗談を言って返してきた・・・・。
5分後。
イェローキャブはミッチを高級アパートメント街に降ろすと、再び夜の闇に走り去っていった。
赤レンガの清楚で伝統的重みのあるアパートメントだ・・・・。
自動ドアの向こうのロビーは46時中交代でフロントマンがカウンターの向こうに立っている。
ミッチがドアを開けてフロントマンに挨拶すると、フロントマンは礼儀良く一礼をして見せた。
エレベーターに乗ろうとするとフロントマンが走りよってきてドアを開け、停止階のボタンを押してくれるほどのサービス振りだ。
エレベーターの振動に再びぶり返してきた眠気が心地よい。
音がしてドアが開くとエレベーターを出てそのまま右手に進み、一番隅の部屋の2022ルームのドアのインターホンを押した・・・・・。
俺はあいつの事を愛していた・・・・・。
だがちっぽけな愛は簡単に俺の手からすり抜けて消えてしまった・・・・。
あのときのあいつの顔は一生俺の記憶から消えないだろう。
未来の夢を俺に語って行ってしまったあの日のことは・・・・・。
さびたブランコ・・・。
色もはげたジャングルジムで正義のヒーロー・・・・。
田舎町の小さな公園で一緒に話したときの(夢)は今は埃を被った
遠い日の玩具に過ぎないのかもしれないけど。
シャワーにあたりぼんやりと考える・・・・・。
もう本当に会えないのか・・・・・?。
馬鹿なことをした。
もっと一緒に居ればよかったと。
シャワーを止めると乱暴に体を拭いて部屋から出る。
窓の外から野卑な程の毒々しいネオンが部屋の中を照らし続けていた。
夢のない俺には夢を持って生きている奴らのことなんてわかる訳ない。
いい加減にあいつの夢を聞き逃していた俺も悪かった・・・・・。
今はただ・・・・心の中の荒涼とした場所にやさぐれた風が吹いて、一本の雑草を揺り動かしているだけ。
体ひとつで苦難にぶつかってきた挙句・・・・。
こんな苦しみにめぐり合うとは思っていなかった。
これが俺の罪なんだと・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます