第3話 歪みの予兆 しあわせなんて絵に描いた様なもの
「「起きて~ぇ・・・・朝よぉ~~(;・∀・)」」
耳元でいたずらっぽく言う妻の声を聞きながら、ミッチは目を覚ました。
頬を膨らまして鼻で笑うとミッチは目の前の妻に向き直った。
大きな茶色の目・・・・。
黄金色の髪・・・・。
私は妻を抱きしめ軽くキスを・・・・。
鳥の羽のような感触の髪は洗い立ての香りがした。
ベッドに座り込んで大きく伸びをしてから外を見ようと窓際に寄った。
澄んだ青い空に雲が転々と散らばって流れていく。
「秋だな・・・。」
独り言を言ってからダイニングルームへと向かった。
広いスペースのセンターには黒いテーブルが置かれそれに対となる背の高い
チェアーが置かれてある。
ここに越してきたときに最初に購入したものだ・・・・・。
スカイブルーの一輪挿し・・・・・あおい花が可憐なアクセント。
つい最近買った大型の液晶テレヴィからニュースが流れているのを見ながら
ミッチはまだ眠気が去らないようなゆっくりとした素振りでいすに座りこんだ。
大物スターたちのゴシップ。世界の紛争。事件事故。スポ-ツや経済情報などを事細かに伝えているニュースショウを聞き流しながら焼きたてのトーストを食べる。
人生薔薇色ならそれでいい・・・・・。
愛する妻とともに生きていくことが出来さえすれば周りで何が起きようと
知ったことではない・・・・。
それが人間の本性であり本質なのだ・・・・。
後はどれほど勝ち組を維持するかということだけなのだがそこまではミッチ
さえも分からないのでこれ以上考えないことにした。
妻が入れてくれたコーヒーを飲み終えて洗面をし、着替えをして妻に出勤前のキスを済ませると家を出る・・・・。
狭い地下鉄のつり革につかまり揺られながら車内を見渡す・・・・。
ごった返す人々の顔どれもが一様に疲れを浮かび上がらせていた。
OM。OL.。工員。小売店の制服を着た女性。巡回中の警備員。
場違いなほどの派手な服を着た叔母さん。半ば眠り込んでいる
年をとった男。強面の顔をした一見社長風の男性。
様々な生活色を抱えた人達を乗せて地下鉄は狭いチューブの中をひた走る・・・・。
ガタンガタンという音を聞いていると時折眠気に襲われて、八ッと目が覚め回りを見渡すのを繰り返した。
最近働きすぎているからな・・・・・。
ここらで長期休暇でも取ろうかと思いながら、何気なく目の前の席に座り込んでいる初老の男を見た。
うだつのあがらない50過ぎの男のようだ・・・・。
くたびれたスーツは擦り切れてネクタイは皺がよっている。
ミッチは残忍にも心の中でその男を笑い飛ばした。
あなたの出る幕はもう終わり。後は長い隠遁生活が待っているだけ・・・・・。
ハッと思いながら自分の軽薄な考えを戒めて、停車駅はまだかと腕時計を見た。
後3分ほど・・・・。
・・停車駅のアナウンスが流れてゆっくりと電車が止まると勢いよくドアが開いた。
その瞬間乗客の誰もが機械的にどっと外へと流れ出していく。
ミッチもその流れに身を任せていった。
殺風景な灰色のプラットホームを歩き、階段を上ると明るいライトに満たされたホールに出る。
誰もが自分の仕事を取られまいと、在る者は走り在る者は早足で自分の職場へと急いでいる様子・・・・。
トイレに行きたくなったので少し足を速めた。
入り口の壁が薄緑色のトイレに入る・・・・・
イツモなら・・・?
ラッシュアワーの地下鉄の中で尿意を我慢してきた人達がひしめき合っている・・・
しかし今日はなぜか知らないが・・・?
入るときにすれ違って出て行った1人だけ・・・
私のほかに誰も居ないようだな・・・・・
誰もいない広いトイレの中で用を足すのも落ち着くな・・・・(・_・)💦
トイレ外からコンクリートに響くたくさんの足音は聞こえてくる・・
女性トイレは掃除をしているらしい・・・
掃除機音が微かに響いて聞こえてきた・・
鼻で笑いながら何だか知らないがのんびりした気分に浸る。
と、同時に・・・?
今日済ませなくてはいけない仕事が不意に頭の中に浮かんできた。
部長に提出しないといけない書類を作らないといけない・・・・・。
あんなものメール一本で済むんだけどな・・・・・・。
新しく配属された部下の面倒も見ないといけないし・・・・。
まいったな・・・・・。
のんびり感もここまでか・・・・。
鼻息荒く用を済ますとファスナーを上げて洗面台に近づき手を洗った。
髪を整えていた時、不意にガタンと物音がした。
自分以外誰も居ないと思っていたトイレのドアが開き中から男が一人出てくる。
エルメットの町には到底ふさわしくもない風体の男だった。
背は高かった・・・・草臥れた黒皮のコートが似合う・・・・
短い無精ひげを生やしている。
何だか疲れ気味の面持ちを垣間見せた。
その男はため息をつきながらミッチと離れた場所の洗面台の前に
来ると手を洗い、水で顔を洗った後トイレから出て行ってしまった。
なぜか知らないがその男のいる間中、ミッチは何だか妙な気持ちになって
その男を食い入るように見てしまっていたのだ。
・・・誰だったんだろう今の男。
そう思って何気に時計を見ると5分も過ぎていることに気がついた・・・
「まずいなこの私が遅刻なんて・・・。」
慌ててブリーフケースを右手にトイレから出た・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます