第21話「深淵の入口」 draft ver.

蒼と紗夜は、図書館の地下奥――普段は決して足を踏み入れられない禁書の扉の前に立っていた。

 空気は凍りついたように冷たく、まるで時の流れそのものが止まっているかのようだった。


「……ここが、“記憶の深淵”への入口」

 紗夜の声は震えていた。強気な彼女でさえ、この場所に宿る気配には抗えないらしい。


 扉に手を伸ばした瞬間、蒼の耳に声が響く。

 ――お兄ちゃん。

 振り返っても誰もいない。だが、その声は確かに蒼の心を貫いた。


「玲奈……!」

 胸の奥から妹の名が漏れる。


 扉が軋む音を立て、ゆっくりと開いていく。

 中には無数の光の粒――人々の記憶の欠片が漂い、漂うたびに誰かの笑い声や泣き声がこだました。


 だが、その光の海の中には、黒い影が蠢いていた。

 記憶を喰らうもの。

 ここが彼らの本拠であり、蒼と紗夜が踏み込むべき戦場だった。


「蒼、迷うなよ」

 紗夜が鋭く告げる。

「ここで足を止めたら、お前も“囚われた記憶”になる」


 蒼は深く息を吸い込み、光と影が交錯する深淵へ一歩を踏み出した。


「次回――囚われた記憶が明らかに!」

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