第20話 次なる扉へ

蒼は深夜の図書館で目を覚ました。

 夢の中で影と対峙した余韻が、まだ胸の奥でざわめいている。


「……もう、迷わない」

 呟く声に、隣で眠れずにいた紗夜が小さく頷いた。


「影は私たちを試している。心を揺さぶって、折ろうとしてる」

「だったら――折れる前に、叩き潰す」


 二人は言葉少なに視線を交わした。

 その眼差しに宿る光は、恐怖よりも決意の方が強い。


 やがて、図書館の奥から微かな音が響いてきた。

 黒い靄が導くように漂い、古い書架の影に集まっていく。


「……あそこだ」


 近づくと、壁に封じられていた扉がゆっくりと浮かび上がった。

 装飾も鍵穴もない。ただ黒い模様が脈打つように揺らめいている。

 まるで心臓の鼓動を持つかのように。


「これが……“記憶の深淵”への入口」


 紗夜が息を呑む。

 その声に、蒼は静かに頷いた。


「行こう、紗夜。ここからが本当の戦いだ」

「ええ。どんな闇が待っていても――一緒に」


 二人が扉に手をかざすと、光と闇が交錯するように模様が波打ち、重い音を立てて開き始めた。


 溢れ出すのは、底知れぬ暗黒。

 その奥から、確かな“気配”が彼らを待ち構えていた。


 蒼と紗夜は一歩を踏み出した。

 ――次なる扉の向こうへ。

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