第19話 影の囁き
その夜、蒼は夢を見た。
目を開けると、そこは懐かしい光景――妹・玲奈の部屋だった。
壁に貼られたポスター、机の上に散らばる教科書、窓から差し込む優しい光。
失われたはずの世界が、そこにあった。
「……玲奈?」
振り返ると、少女が立っていた。
柔らかな笑顔。あの日と同じワンピース。
彼女は迷いなく蒼に駆け寄り、その手を取った。
「お兄ちゃん……もう離れないで。今度こそ一緒にいよう」
温かい声。小さな手の感触。
あまりにも自然で、あまりにも切実で――蒼の胸を締め付ける。
「玲奈……本当に……?」
涙が滲む。
けれど、その奥でわずかな違和感が灯った。
彼女の瞳の奥に、見覚えのない“闇”が潜んでいる。
『一緒に来て。そうすれば苦しまなくて済む』
囁きが耳を撫でた瞬間、蒼ははっと息を呑んだ。
それは玲奈の声に偽装された、冷たい響き――影の声だった。
「……お前は玲奈じゃない!」
蒼が叫ぶと、部屋の景色が一気に崩れ去る。
机も壁も光も砕け散り、闇が押し寄せてきた。
偽りの玲奈は影の形へと戻り、冷ややかに笑った。
『よくも拒んだな……。だが心は脆い。いずれ必ず、屈する時が来る』
闇に飲まれそうになったそのとき――
「蒼! 目を覚まして!」
遠くから、紗夜の声が響いた。
その声に導かれるように、蒼は必死に目を開いた。
目の前には、心配そうに覗き込む紗夜の顔があった。
冷や汗に濡れた額を拭われながら、蒼は荒く息をつく。
「……ありがとう、紗夜。危うく……飲まれるところだった」
紗夜は真剣な眼差しで言った。
「もう影は仕掛けてきてる。次は……本当の戦いになる」
蒼は頷き、固く拳を握った。
「絶対に負けない。玲奈の記憶も、俺自身も、守り抜く!」
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