第18話 古き記録
影の残滓を追い、蒼と紗夜は図書館のさらに奥へと足を踏み入れた。
そこは利用者が立ち入ることのない領域――埃をかぶった古書が眠る、封印の書架だった。
「ここ……誰も使っていないみたい」
紗夜が囁く声は、自然と小さくなった。
空気は冷たく、時間が止まったように静まり返っている。
本棚の一角に、ひときわ古びた革装丁の本が置かれていた。
蒼が手を伸ばすと、驚くほど軽く、そして温かい。
まるで心臓の鼓動を宿しているかのようだった。
「……日誌?」
ページを開くと、そこには整った文字で記録が綴られていた。
――我ら記憶守りは、影と幾度も相対した。
――だが多くは敗れ、記憶を喰われ、消えていった。
蒼は息を呑む。
そこには「守り人たちがどれほど戦い、そして散っていったか」が赤裸々に書かれていた。
「……みんな、負けてきたんだ」
紗夜の手が震えていた。
彼女は幼い頃から守り人としての宿命を背負ってきた。
その道がいかに絶望に彩られているかを、この記録が突きつけている。
「紗夜……」
蒼は彼女の肩に手を置いた。
「確かに、過去の守り人は負けた。けど――俺たちは違う」
蒼の声は強く響いた。
「俺にはお前がいる。お前には俺がいる。二人でなら……きっと突破できる!」
紗夜は目を見開き、やがて小さく笑った。
「……そうだね。私たちなら……」
その瞬間、日誌のページがひとりでにめくれた。
最後の行に、鮮やかな赤でこう記されていた。
――影の核は、“記憶の深淵”に眠る。
二人は顔を見合わせ、頷いた。
目指すべき次の場所が、はっきりと示されたのだ。
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