第16話 図書館の誓い

黒い靄を纏った影が蒼へ迫る、その刹那――

 白い光が影を弾き飛ばした。


「蒼、無茶しないで!」


 紗夜が駆け込み、両手で光を放つ。

 その光は彼女が持つ「記憶守り」の力だった。

 だが影はすぐに立ち直り、忌々しげに舌打ちをした。


『小娘が……。だが、お前の力だけでは我らを封じられぬ』


 影が再び蠢き出す。

 空気が重く沈み、書架が軋む音が響いた。


 蒼は肩で息をしながら、紗夜に向き直る。


「……紗夜。俺は、もう逃げない。妹を理由にして、自分の弱さを隠すのはやめる」


 その言葉に、紗夜の瞳が揺れる。

 蒼の決意が、真っ直ぐに伝わってくる。


「一緒に戦おう。俺は依頼人の記憶も、妹の記憶も、全部守りたいんだ!」


 紗夜は力強く頷き、蒼の隣に立った。


「……わかった。蒼、私も全力を尽くす」


 二人の声が重なり合った瞬間、図書館全体が震えた。

 本棚に縛り付けられていた黒い糸が切れ、そこから無数の光の粒が解き放たれていく。


 影は苦しげに咆哮を上げた。


『くだらぬ人間が――! 記憶を守って何になる!』


 蒼は拳を握りしめ、叫んだ。


「記憶こそが、俺たちが俺たちである証だ!

 失ったままじゃ前に進めない。だから俺は、守り抜く!」


 その叫びに呼応するように、紗夜の光がさらに強く輝いた。

 二人の力が重なり、影を押し返していく。


 やがて黒い靄は霧散し、残されたのは静まり返った禁書の間だった。


 蒼と紗夜は肩を並べて立ち、深く息をついた。


「蒼……私たちは、まだ戦える」

「ああ……ここからだ。俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ」


 二人は互いに視線を交わし、固く頷いた。

 ――必ず、影を討ち、記憶を守り抜く。


 それが、図書館に誓った二人の決意だった。

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