第13話 禁書の間
眩い光に呑まれた蒼は、気づけば見知らぬ場所に立っていた。
そこは確かに図書館の一部でありながら、まるで異世界のようだった。
天井は見えないほど高く、無数の本棚が蜘蛛の巣のように絡み合っている。
だが、その本棚はどれも黒い糸に縛られ、ところどころが歪んでいた。
まるで記憶そのものが縫い付けられ、囚われているかのようだった。
「ここが……禁書の間……」
声に応えるように、低く湿った響きが広がった。
『ようこそ、迷い子よ』
闇の奥から蠢く影が姿を現す。
人の形をしているようで、輪郭は常に揺らぎ、目も口もない。
それでも、確かに“視線”を感じた。
蒼は震える拳を握りしめる。
「……お前が、影なのか」
影は嘲るように肩を揺らした。
『影――? 違う。我らは“喰い人”。記憶を喰らい、生きる者』
冷たい声が空気を刺す。
蒼の耳の奥で、再び妹の声が重なった。
『お兄ちゃん……助けて……』
心臓が激しく脈打つ。
この声は幻なのか、それとも本物なのか。
影――いや、喰い人はゆっくりと手を差し伸べた。
『妹が欲しいのだろう? ならば代償を寄越せ。お前の記憶を……』
その瞬間、蒼の頭の中に、自分の大切な思い出が次々と過ぎっていった。
祖母の笑顔、友人の笑い声、初めて紗夜と出会った夜。
それらを失えば、自分は自分でなくなる。
「……ふざけるな! 俺の記憶は渡さない。妹も、依頼人の記憶も、全部守る!」
蒼の叫びが、黒い空間に響き渡った。
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