第10話 閉ざされた扉
翌日、蒼は紗夜に問いただそうと図書館を訪れた。
高い天井に差し込む月光の下、無数の本棚が静かに並んでいる。だが、どこか空気が張り詰めていた。
「紗夜、昨日のあれは……」
蒼の言葉に、紗夜は答えず奥へと歩みを進める。
彼女が立ち止まった先には、漆黒の扉があった。
図書館のさらに奥――普段は決して近づけない場所。
見覚えのないその扉は、まるで心臓の鼓動のように脈打ち、わずかに軋んでいた。
「これが……?」
蒼が呟くと、紗夜は扉を見据えたまま静かに頷いた。
「“禁書の間”。ここには、過去の記憶ではなく――封じられた影の記録が眠っている」
蒼の背筋を冷たいものが走った。
まるで昨日の夢と現実が繋がったかのように、あの妹の声が再び耳の奥で響いた。
『お兄ちゃん、開けて……』
蒼の手が無意識に伸びる。
だがその瞬間、紗夜が強く彼の手を掴んだ。
「だめ! この扉を開ければ、あなたも影に呑まれる」
その瞳は必死だった。
だが蒼の胸には、昨日の声が焼きついて離れない。
「……それでも、妹がそこにいるなら」
紗夜の表情が揺れる。
そして扉は、ギィィ……と、誰の意思でもなく、わずかに開き始めた。
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