第13話 どうせ……
私は、夏目君を見つめる。
未来がわかるんだ。
「どうせ、夏目君も完璧なオーダーを叶えたら、私なんかさっさと捨てるよ」
スヤスヤと眠る夏目君に私は話しかける。
わかっているけれど。
今だけは触れていたい。
私は、夏目君の髪を優しく撫で続ける。
愛らしい目に長い睫毛、存在感を主張しすぎない鼻に丁度いいサイズの唇、それを収納する輪郭。
全てが完璧な
「夏目君は、昔なら、アニメのキャラクターに選ばれそうだよ」
私は、夏目君の全てのパーツに触れていく。
手放したくないほど、美しい。
「私は、
私は、夏目君の全てのパーツにキスをする。
許してくれ。
今だけは、どうか。
いずれ、夏目君は私の元を去っていくのだから。
それを私はわかっている。
だから、許して欲しい。
夏目君。
「ううーーん」
夏目君は、目を開く。
「夢ですか?」
「夢だよ」
「青葉さん」
夏目君に嘘をつく。
目を開ければ、そのパーツはさらに完璧さを増す。
ドキドキが止まらない。
夏目君に聞こえないか心配だ。
「何だい?」
「いつか、僕とデートして下さい」
ニコッと微笑んで崩れた顔は、より夏目君を輝かせる。
綺麗だ。
美しい。
ずっと、ずっと一緒にいて欲しい。
願ってはいけない気持ちを口に出してしまいそうだ。
「美しいよ、夏目君」
夏目君の頬に優しく触れる。
夏目君は、優しくキスをしてきた。
ドキドキと心臓が、壊れそうな音を叩く。
「夢なら、まだ覚めないで欲しい」
夏目君は、またキスをしてくる。
今度は、首に腕を絡ませて強く私を自分のもとに引き寄せる。
より深く深くキスをされる。
これ以上は、駄目だ!
これ以上、されると。
そう思った瞬間、夏目君の腕がスルリとほどけた。
「夏目君」
「スゥー、スゥー」
夏目君は、寝息をたてて、眠ってしまう。
「夏目君、この体をどうしてくれるんだよ」
私は、夏目君の頭を優しく撫でて立ち上がった。
師匠と別れて、私は機能不全に陥っていた。
周りをぐるりと囲む、オーダーだらけの人々に吐き気がしていたからかも知れない。
もう、
だって。
自動販売機でジュースでも買うように、みんな簡単にオーダーしに行く世の中だから。
そんな世の中なのに。
私は、夏目君を置いてリビングにきた。
煙草を一本取り出す。
昔と違って、煙草は一箱三万円。
今までのように、20本入りではない。
5本で、三万なのだ!!
まさに、高級品。
まさに、嗜好品。
私は、それを寝る時に、毎日一本吸うのが日課だ。
ピーンと音の鳴るライターをはじいて、煙草に火をつける。
「スーー」
胸いっぱいに吸い込んで、吐き出す。
昔と違って、何とか草を使っているらしい。
今の煙草は、健康品になっている。
お金持ちは、寿命を伸ばす為に煙草を毎日吸っている。
「百害あって一利なし。そんな時代の
あの時は、20本入りで、580円ぐらいだったかな?
体に染み渡る薬草の味。
だけど、嫌な味ではない。
一箱、三万。
だいたい、私は
って、夏目君のお給料じゃ赤字だな。
そうだ!
夏目君のお給料をいくらに設定してあげよう?
私は、灰皿で煙草を消す。
5分で吸い終わるものにお金をかける無駄さが、堪らなく好きだった。
一瞬でなくなるものにお金をかけられるということは、それだけ私がお金を稼いでいるということだ。
無駄遣いが好きなわけじゃない。
消えてなくなる儚いものに、お金をかけるのが好きなだけだ。
本当なら、貯金して。
家を買って。
車を買って。
宝飾品を買って。
そんな風にお金を残していくべきなのだろう。
だけど、それは。
未来がある人間の話だ。
お金を残したところでどうなる?
死んだら、誰かが使うだけだ。
家だって、持っていたところで。
私が死んだあとに片付けやら手続きが大変だ。
車なんて、なくたって。
ロボットが安全に走ってくれる。
宝飾品を身に纏わなくたって、私が歩くだけでみんなが見る。
やっぱり、青葉先生はすごいわと……。
私自身が、宝石のようなものだ。
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