第3節 紅の夜 3話目
「――なるほど、ではこの場は俺が預からせてもらおうか」
Aランクパーティ、夜明けの一座。その
「全く、リーダーのそのすぐトラブルに首を突っ込む癖は止めて欲しいものだ」
「全くだわ。こっちだって大事な話があるんだし、その為に個室が取れるこの酒場を選んだっていうのに」
グナーンに続いて大柄な体格を持つ
「……っ!」
この場において、自分だけが知らない面々。ドゥリィは一瞬警戒した様子を見せるが、レーヴァンがいる手前でこれ以上下手な動きを見せる訳にはいかないと、
「そ、そんな! わざわざこんな、無銭飲食をするような輩を庇うなんて!」
「それだけなら尚更、俺が支払いを肩代わりすれば済む話だ。なに、気にするな。知っている顔の新人が困っているから手を差し伸べようって話だ」
そうしてグナーンはレーヴァンの方に笑顔を向けるが、肝心のレーヴァンはばつが悪いような反応しかできずにいる。
いつかまたどこかで会う気がする――こうしたグナーンの予感は、意外にも早い時間で当たることとなった。
「それで? いくらぐらい足りないのかな?」
「……では、失礼ながら――」
ウェイターはドゥリィが持っている分の金貨を数え、そして改めて足りない分を計算し直してグナーンへと提示する。
「……へぇー! 結構な値段だなぁ!」
「それがかなりの量を注文されておりまして……」
「ハハッ! 俺達が食ったら胃もたれする量だ! なあドーバン!」
そうして軽く笑い飛ばすグナーンに対して、レーヴァンはというとここで余計な借りを作りたくないのか、眉間にしわを寄せてあくまで一時的な貸し付けにして欲しいと主張しだす。
「この場を支払ってくれるのはありがてぇけど、金が出来次第すぐ返すからな」
「おい! お前! この場で払ってもらえるだけでもありがたいっていうのに、なんて言い方だ!」
「いいんだいいんだ。彼に関してはその内すぐに俺達と同じAランクにのし上がってくる。その時にでも返してもらえばいい」
そう言ってグナーンはドゥリィが支払えなかった分の残りの金額をウェイターに支払いつつ、予約していた個室を取り消してレーヴァンと同じ部屋にするように伝える。
「よろしいのですか?」
「ああ。どうせなら彼もこの話を耳に入れて貰っておきたい。……そちらのお嬢さんは?」
「あっ……あの……」
この時のドゥリィの心境としては、この場から一刻も早く去りたいという気持ちが強まっていた。
――自分と同じ道具ではなく、人間がこの場に三人も増えてしまう。それは同じ匂いをかぎ取ったレーヴァンを相手にするのとは全く異なってしまう。
「…………」
「俺は別にいいけどよ……」
「そちらのお嬢さんは? 一緒でも良いかい?」
「…………」
今度は
「……はい。いいですよ」
――この場において、自分はただの
それまで以上の無感情、無表情ぶりに、この場の誰よりも驚いた者がいる。
「……本当に大丈夫か?」
「はい。私なら大丈夫ですよ」
この時のドゥリィの心境がどのようなものだったのか、実のところドゥリィ自身もよく分かってはいない。
人間に使われる道具としての自分。そしてレーヴァンに依存し人間としての感情を得ようとする自分。その両方がせめぎあった結果、今だけはレーヴァンの傍にいる道具としてあくまでこの場における一つの物体、ものとして存在することだけをドゥリィは遂行しようとしていた。
「……ねぇ。なんか死んだ顔みたいになってるようだけど、もしかして彼女とデート中だった?」
「そんなもんじゃねぇよ」
後から入ってきたイェレナは同じ女性として気まずさを感じ取ったのかこっそりとレーヴァンに尋ねるが、レーヴァンとしてもそういうつもりもなくタダ飯を食って話を聞いていただけ、といった返事を返す。
「はぁ……なんか、ちょっとだけその子に同情するわ」
「そうか?」
「そうよ。というかうちのグナーンもそうなんだけど、人として持つべきデリカシーっていうのが無いというか、何と言えばいいのやら」
「デリカ、シー……」
繰り返すように最後に小さく呟いたきり、以降のドゥリィは文字通り物言わぬ置物となっていく。
「まっ、結局はDランク以上の冒険者にはギルドから勧められるものでもあるし、それが俺達の口から知らされても何も問題ないか」
「それで何の話をするんだ?」
「まあまあ、まずは駆けつけ一杯」
そう言ってグナーンは追加でビールを注文し、そしてドーバンやイェレナが昼食の注文を済ませたところで、ようやく話は本題へと入っていく。
「ではまず君達に一つ問いたい」
――
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