第6節 剣の作り方 5話目

「っくぁあ……」


 太陽もとっくに昇りきっており、明るい陽射しが閉じ切っていたまぶたを刺激する。


「……よく寝た」


 寝るという行為は彼ら魔剣にとって意味がある行為なのか。その答えとして帰ってくるのは、半分は意味のある行為、もう半分は人間を模倣しての意味のない行為というものである。

 眠っている間、つまりは休眠状態に入っている間は人間と同様活動が抑えられている状態であり、この状態であれば活力エーテルの消費も剣霊の維持程度と最小限に抑える事ができる。

 そして意味のない行動といわれる大きな理由が、まさにこの剣霊として姿を現した状態を指している。本当に活力消費を抑えたいとなれば、霊体化を解いて剣だけとなった状態で休眠に入ることが一番活力エーテルの消費が抑えられる。

 しかしレーヴァンとしては剣霊として顕現している方が性に合っているのか、エーテルの管理が必要な時以外はこうして人間の様に寝ている事の方が多かった。


「……この金槌の音、親父殿が剣を作ってんのか」


 依頼の提出品として必要な剣。その材料がそろっている今、ウェルングに作らない理由なんてない。


「ちょっくら顔出すか」


 軽く衣服を叩いたところで、レーヴァンは鞘に収まった剣を手に、火事場の方へと歩いていくことにしたのだった。



          ◆ ◆ ◆



「――しっかり押さえんか! ここからが大事なんじゃ!」

「は、はい!」

「なんだなんだ? 一体どういうことだ?」


 昨日はあれだけ貸すことを渋っていたリェルナの手伝っている姿に、レーヴァンは困惑していた。

 リェルナは火箸で焼けた鉄をしっかりと掴み、熱した鉄を打つ際の飛び火をものともせず、まるでウェルングを師としているかのようにその一挙一動を目に焼き付けようとしている。


「…………」

「おや、随分とお寝坊の様子ですねレーヴァン」

「んだよアドワーズ。別にいいだろ。暫くは来ねぇだろうし神経質すぎるだろ」

「それでも警戒しておくに越したことはありません。もしかしたらダーインお兄様が修理されている間に、他のお兄様達が――」

「なおさらねぇよ。あったとしても闇討ちみたいな真似するような奴はいねぇ。必ず親父のツラを見る為に、真正面に立ってくる」


 暗殺をする可能性があるとするならば、その為に創られたダーインだけ。しかもそのダーインですら父親に対してそのような真似をせず、前に立って相対してきた。


「来てやべぇのはイスカかボルグだろうが、多分来ることはねぇだろうしな……まっ、俺は暇つぶしに街をうろついてくるわ」

「ちょっと!? レーヴァン!?」

「街に行くのか?」


 それまでなっていた金槌の音が途切れ、代わりに自分を呼ぶ声がする。


「ん? 何だ親父殿?」


 振り返ったレーヴァンに向かって投げられたのは、ここまでの生活の中で僅かに残された金貨の袋。


「やはり選んだ鉄鉱石だけでは満足いくものができないかもしれん。市場か何かで良い素材があれば買ってきてくれ」

「俺の目利きで良いのかよ?」

「構わん。適当に見繕ってきてくれ」

「分かったよ」


 出かけるついでのお使いを頼まれたレーヴァンは、袋を懐にしまってその場を去っていく。


「余計な買い物をしちゃ駄目だからねー!」

「分かってるってのアドワーズ! ったく、ガキじゃねぇんだからよ……」

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