第6節 剣の作り方 6話目
「――っつっても、何を買ってくればいいのか皆目見当がつかねぇな」
改めて街を散策してみたことでレーヴァンが気づいたこと、それはこの街に行きかう人々が多種多様な種族であることだった。
「エルフにオーク、それにあいつは
あまり人をジロジロと見るべきではないにしろ、仮に絡まれたとしても己の方が絶対に強いと確信を持っていたレーヴァンは、そうして街を歩きながら人々の顔や姿をじろじろと見て回っていた。
「……ん? あいつは――」
「それでよぉ――げっ!?」
互いに顔が確認できる距離。その距離でお互いに足を止め、目線を交わすその先――レーヴァンの目が捉えていたのは、かつて父を侮辱したことで文字通り焼きを入れてやったオーク族の男が浮かべる血の気の引いた表情だった。
「テメェ、確か――」
「な、何だよ!? 今回まだ何も言ってねぇししてねぇだろうが!?」
「ねぇ、あの人誰?」
「てっ、てめぇは黙ってろ新入り! ギルドの紹介での臨時加入だからって、勝手に口を開いていい訳じゃねぇからな!」
「そうなんだ……分かった。黙っていることにするね」
レーヴァンとしては知ってる顔を見つけた程度の反応でしかなかったが、向こうにとってはトラウマ級のものだったらしく、その一挙一動に対して極端な反応を示している。
そして近くにいる少女――恐らく見た目だけならレーヴァンと同じくらいの年代であろうか、戦いの邪魔にならないようにと後ろで短く結ばれた髪と、相手に考えを読まれないようにひたすらに無機質に徹底された表情が印象的な少女が、オークの男の数歩後ろをついていくように歩いている。
「あの一件はあれで終わりだろうが。別に今更何かしようってつもりはねぇよ」
「ぐっ……あの一件以来こっちの信用が落ちてんだよ! Bランクが冒険者志望の新人にぶっ飛ばされたとあってはならねぇってのに!」
「それはテメェが弱かっただけの話だろうが」
そんなレーヴァンも今となっては一気にDランクにまで昇格を済ませた将来有望な急上昇株。対するオークの男が率いるBランクパーティ、ベーガンズは昨今の依頼の未達成も合わさって降格の危機に瀕している。
「とっ、とにかくもう関わらないでくれ! こっちはパーティメンバーの組み換えもあって、立て直しに忙しいんだよ!」
「別に関わりたくて関わってるわけじゃねぇし……勝手にしろっての」
これ以上の交流は無意味だと思ったレーヴァンは、オーク族の男と連れの少女の隣をすれ違うように通り過ぎようとしたが――
「――もしかして、貴方も――」
――送り込まれた“道具”の一人?
「――は?」
振り返るころには既に小声では届かない距離まで離れてしまっている。
「……何だ? 道具、だと……?」
(まさかあいつ、
不信感を抱きながらもレーヴァンは元々の目的であった剣の素材探しをするべく、再び市場の方へと足を向けるのだった。
◆ ◆ ◆
ビゼルラで一番大きな広場は、そのまま一番大きな市場へと繋がっている。
「そういえばこの辺は来たことなかったな……」
元々この街に住まう露天商から区画の一角を借りて商いを行う行商人まで、様々な人々がおすすめの一品や掘り出し物を売ろうと大声をあげて呼び込みを行っている。
「今日とれたばかりの新鮮な野菜だー! 安くしておくから買って行っておくれー!」
「こちらお隣の国アーリュスから仕入れた珍しい反物だよー! 他にも各種希少品や珍品を揃えているから、ぜひとも見てってくれー!」
(生活品や嗜好品が中心って感じの、普通の市場だな)
あくまでこの市場のターゲット層は一般市民を狙いとしている様であり、ウェルングが望んでいるような品物は無いようにも思われる。
「適当に見てから帰るか……」
「そこのお兄さん!」
「あぁん?」
「ちょっと何か見て行かないかい? どれもオルランディア王国でしか手に入らないものなんだけどさ!」
声をかけてきたのは中年くらいの男性で、話を聞く限りだとオルランディアから仕入れてきた交易品を売っているらしいとのことだが――
(――駄目だな。こいつふっかける気しかねぇ)
諸外国に比べて内向的なオルランディア王国からの品となれば、それなりに珍しいものばかり――という訳でもなく、元々の出身国(?)がオルランディア王国のレーヴァンにとっては見慣れたものばかり。
「悪ぃが俺はオルランディアを知っている。ぼったくるなら他を当たれよ」
「ちぇっ、ハズレ客か。腰の剣からして金持ちの坊ちゃんかと思っていたが」
「生憎だがこれでもテメェを焼き殺すくらいの魔法は使えるんでなぁ。試してみるか?」
不敵に笑みを浮かべて右手の内に炎を灯せば、それは立派な脅しとなる。店主もこれ以上は関わるまいと、適当にあしらおうとしたが――
「……おい」
「お、お客さん分かったから! 別の客に物を買って貰うから――」
「その裏に控えてるモン見せてみろ」
雑多に積まれた商品の数々――その中でレーヴァンの目に留まったのは、見覚えのある剣の柄。
「えっと……この裏のものはまた別のところで売る予定の品で、ここでは――」
「いいから、その見えてる剣の柄を表に出せ!!」
あくまで冷静を装っていたつもりだったが、その大声は行きかう市民の注目を集めていた。
「何だなんだ?」
「喧嘩か?」
「またあの男だよ。前も仲間同士で喧嘩をしていたっけか?」
「そうなの?」
「あ、あのーお客さん。これはどっちかというと拾い物で、俺もどれくらいの価値があるのか測れないから――」
「んなもんこれだけ金をくれてやるからさっさと寄越せっつってんだよ!」
そう言ってレーヴァンは金貨を袋ごと店主に投げ捨てるように渡すと、そのまま店の奥へと勝手に入り込み、荷物に紛れた剣の柄を握りしめる。
「……冗談、だよな?」
そのまま剣を引き抜いたところで、客に土足で入り込まれた店主以上の困惑の表情をレーヴァンは浮かべる。
「――何だよ、この
「お客さん! ちょっと困るよ! いくらお金があるからって――」
折れた剣を片手に、レーヴァンは更なる大声をあげる。
「おい店主!!」
このやり場のない憤りをどこにぶつければよいのか、レーヴァンには分からなかった。ただ最も近くにいた店主の襟首を掴んで持ち上げることで、怒りをそのままにぶつける事しかできずにいた。
「テメェ、この剣どこで拾った!? テメェがブチ折ったのか!?」
「いいい、一体何のことかさっぱりだよ!? 私はここに来る道中で拾っただけで――」
「クソッ……何で、なんで――」
――
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