……誰か私に、やさしい嘘をちょうだい……。

 翌日、私は死んだような顔で幹部会議に出席していた。


 ……いや、正確に言うと「死んだフリ」ね。実際には心がちょっぴりダメージを負ってるだけ。でも誰にもバレてない。たぶん。


 ていうか、聞いてよ。昨日のアレよアレ。

 3年かけて準備して!

 汗と涙と情熱と寝不足と、ついでにちょっとしたブラック労働で築き上げた「ECS復活の初襲撃」!

 ついにこの日が来たって、テンションぶち上がってたわけですよ!!!


 それが――開始10分で終わったんですけど???


 なんなら私が華麗に「登場ドーン!」ってする前に、全部終わってたんですけど?????????


 私は机に肘をつきながら頬杖をついた。

 この姿、見た目は「冷静なカリスマボス」だけど、内心はただの心折れた女。

 モニターには昨日の映像が映ってる。ああ、見たくない。いや見るけど。


「では、昨日の戦闘映像を確認しましょう」


 と淡々と喋るのは技術班トップ・クルツ。

 あんたもうちょっと空気読んで!?

 クルツがリモコンの再生ボタンを押す。画面が切り替わる。


 映像には、私が愛情込めて育てた(たぶん)生体兵器第1号くんが、誇らしげに飛びかかってる。


 よし、行け!やってやれ!


 って思った次の瞬間――


 ――”バシュッ!!!” 


 はい、真っ二つ。


 ……うそでしょ???


 銀髪の魔法少女が、なんかすごい速さで剣を振ったと思ったら、1号くん、爆散。

 跡形もなく、キレイに。ほんとに見事な斬撃で。なにそれ日本刀のCM???


 え、ちょ、は??? え?????


 横でクルツが「最初の接敵時間:0.8秒」とか言ってるけど、そこ情報いる!?


 いるのそれ!?!?!?!?


 私はじわじわとテーブルに顔を伏せる。

 まだ……まだ映像は続くのよね……。


 ECS復活初襲撃――華々しく散った我が部隊。

 今ここに、絶賛爆死中!!!


 ……誰か私に、やさしい嘘をちょうだい……。ほんと頼む……。


「ちょっと待って、もう少しスローにできない?」


 私は目をひん剥きながら、クルツに問いかけた。

 なんか……今の……一瞬だったよね……?

 私の目がついていけてないだけで、ほんとはちゃんと戦ってたはず。うん、きっとそう。


「これは最大スローです」 


 クルツの冷静すぎる返答が、静かに戦慄を走らせた。


「…………は???」


 モニターに映る映像を、私は凝視する。

 いや、正確には「祈るように睨みつけている」と言ったほうがいい。

 希望を込めて、もう一回再確認。


 でも、やっぱり――剣士の一閃。

 そして、第1号くんの爆散。


 ……は?


 私の中の理性が「映像の不具合では?」とささやいた。

 そうよね、バグよねこれ。

 さすがにこれは物理的におかしいってば。ゲームだったら修正パッチ案件だし!


「おかしいわね……まさか、一瞬でやられるはずが……」


 念のため、私は目を細めてスロー再生を再再確認。

 この天才アーカーシャ様の目で、隅々まで見てやるわよ!!!


「……ボス、気づいてますか?」


 クルツが、画面を指差す。


「剣を振ったの、たった一回ですよ」


「………………………………は???????????」


 今度こそ、頭を抱えた。

 3年。

 3年だよ!?

 こっちは、寝る間も惜しんで技術開発して、育成して、初号機くん完成させたのに!

 その努力が、「一振り」で粉砕とかありえる???


「これ、ちゃんと計測できてる?」


 私は震える声で尋ねる。

 クルツはコクンと頷いた。


「はい。ですが、攻撃速度が速すぎて、精密な解析ができませんでした」


「はぁ!?!?!?!?」


 スピードが速すぎて、測れません???

 なにそのRPGの裏ボスみたいな仕様!?

 ボス補正で私が強いはずだったんですけど!?!?


 でも私はすぐ切り替える。そう、私は天才。冷静沈着。そしてポジティブ。


「ま、まあ、初号機だからね! 初回はデータ不足もあるし! 不慣れだったし! 想定より魔力流路がズレてたし! ほら、いろいろあるじゃない!?」(※全部その場で考えた言い訳です)

 

 クルツは淡々と、私の希望をぶち壊す作業を続けた。


「では、次のシーンです」


 第2号くん登場。今度は遠距離対応型、ビーム撃てます!自慢の光線仕様!

 さぁやれ、撃て! まずは牽制――跳んだ。


 銀髪の剣士、飛んだ!!!!!

 空中三回転!!!??

 そのまま落下しながらの、斬撃一閃!!


 ――”ドカァン!!!”


 第2号くん、やっぱり爆散。キレイに。ものすごくスプラッシュ。


「これ、最大スローです」


 またクルツの冷静な声。


「………………………………は???????????」(2回目)


 同じツッコミを2度する日が来るなんて思ってなかった。


「な、なんでこんなに動きが読まれてるのよ……!」


 私は震える指で別の映像へと切り替えた。

 これは夢か幻か、それとも……演算処理が追いつかない系のバグなのか……。


 いや――違う。


 これは現実だ。


 すると――今度は、もう一人の魔法少女が動いた。

 銀髪の剣士じゃないほう。


 ……何あの魔法陣の数!?!?


「ちょ、ちょっと待って? 何枚あるのよ!?!?」


 彼女の手元に、ぐるぐると回転する魔法陣がいくつも出現。

 その中心から――。


 ――”バシュッ! バシュッ! バシュバシュバシュッ!!!”


 連射される魔力弾の数、なんと10発以上!!!!!!

 おいおい、どこの弾幕シューティングだこれ!!!


「うそでしょ!?!?」


 さっきから私の語彙が中学生みたいになってる気がするけど仕方ないでしょ!!!

 見てよコレ、見て! 生体兵器くん、あんなに必死で組み上げたのに!


 ぎっぎっぎぎ……ッパァァン!!!!!


 はい、可動不能。そのまま撃破。

 嘘じゃなくて現実。

 え、これ夢じゃないよね?

 まだ寝てる? 私、目覚めてない???


「……ボス?」


 ゼーベインがこっちを見てた。

 私の、たぶん白目剥いてる顔を心配そうに覗き込んでくる。

 いや無理。

 脳がバグってんのよ今。


「…………」


 私はそのとき、やっと理解したの。

 3年分の努力が、たった10分で吹き飛んだってことを。


 あいつら……なに……???


 人間じゃないの……????


 聖霊界が作り出した人造兵器だったりしない……???


 幹部たちも、みんな絶句してた。

 誰も口を開かない中、ヴェルトだけがひっそりと呟いた。


「……これは、魔法少女の戦闘技術が、完全に次元を超えている可能性がありますね」


 次元を超えるって、何!? 魔法少女ってそんなカテゴリだったっけ!?

 クルツも、頭を抱えながら言う。


「ボス、想定以上に彼女たちのスペックが高すぎます……。これは……」


「チートだわ」


 私は机に突っ伏した。

 頭から、ぽふっと。

 現実逃避という名の正面衝突。


 ……いや、ありえなくない??????


 私、3年かけて育てたんだよ!?!?

 設計も調整も訓練も、全部私がやったのよ!?


 それが――


 開始10分で――


 壊滅?????????????????????


 無理無理無理無理無理!!!!

 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!!!!


 机に頭をガンッ!!


「いやいやいやいやいやいや!!! これ、どうすんのよ!!!!!」


 どうすんのよ私!!!!!!!!!!??????


「まぁ、ありゃボスより強いな」


「んなわけないでしょ!!!!!」


 バン!!


 私は机を思いっきり叩きつけ、勢いよく立ち上がる。


「いやいやいや、確かに強かったけど、私が負けるわけないでしょ!?!?!?」


 私の言葉に、幹部たちは微妙な顔をしている。

 ……何? その 「いや、でも現実見ようぜ」 みたいな顔。

 納得いかない!!!!!!


「……いや、悪いが正直に言わせてもらうと、ボスでも勝てないと思うぞ」


「はい???」


 ゼーベインが深々とため息をつきながら、腕を組む。


「昨日の戦闘、俺も直接やり合ったが……アイツは動きを完全に読んでいた。攻撃のタイミング、回避の精度、全てが俺より上だった。そもそも、俺がまともに一撃も入れられなかったんだ」



「…………えぇ?」



 私は信じられないという顔でゼーベインを見る。

 いやいや、ゼーベインって幹部の中でもトップクラスの武闘派でしょ!?

 その彼が、一撃も入れられなかった?????

 ゼーベインは続ける。


「しかもだ。もう一人の射撃の方、アレはヤバいぞ」


「そうですね……昨日の戦闘データを見てください」


 クルツが映像を切り替える。

 今度は銃撃戦のシーンだ。

 モニターに映し出されたのは、もう一人の魔法少女の戦闘データ。


 生体兵器たちが次々と撃ち抜かれていく。

 いや、ちょっと待って。

 頭、胸部、関節部――どのショットも、すべて急所に当たってる。


「この魔法少女、射撃の急所命中率が 100% でした」


「……え? 何パーセント?」


 私は聞き間違えたかと思い、クルツに確認する。


「100%です」


「いやいや、そんなのあるわけ――」


「ちなみにボスの過去最高命中率は 98% です」


「……………」


 沈黙。


 え、待って、それってつまり……。

 私よりも精密射撃が上手いってこと?????

 いやいやいや、そんなわけ……。

 そんなわけある???????


 私は動揺を隠せず、モニターを凝視する。

 何度見ても攻撃は一切無駄がなく、全てが的確に命中している。


「……いやいや、ちょっと待ってよ?」


 自分に言い聞かせるように、私は続ける。


「射撃って、天性の才能と経験の蓄積がモノを言うのよ!?!?!?」


 私の射撃技術は 「経験」と「膨大な試行錯誤」 の末に培われたもの。

 精密射撃を磨くため、私は過去に 無数の実践データを分析し、独自の射撃理論を確立 してきた。

 私が1発撃つたびに、その確率と精度を研ぎ澄ませ、ついに「98%」という神域に達した。


 なのに……。


 あの子、何よ、生まれつきの才能だけで100%に到達しましたって顔してるのは!!!???


「おかしいでしょ!!! 天才の私が3年かけて築いた射撃理論を、一瞬で超えるとか!!!!!」


 ゼーベインが肩をすくめる。


「……まぁ、現実を受け入れるしかねぇな」


「受け入れられるか!!!!!」


 私は叫ぶ。

 だっておかしいじゃない!?!?!?

 私の3年間 VS 初見のあの子

 これが「才能の壁」ってやつなの!?!?!?

 いやいやいや、認めない!! 認めないわよ!!!!

 私は天才!!! だから!!! 絶対に!!! なんとかしてやるんだから!!!!!!!


「……これ以上に深刻な問題があります」


 技術班トップのクルツが、ため息混じりに言った。

 嫌な予感がする。

 なんとなく、察しがついてしまう。


 (だって、ここまで「チートすぎる才能」を見せつけられたのよ!?)


 これ以上、何を言われるというの!?!?!?


 「クルツ、何よ。まさか、さらに絶望的な話でもする気?」


 私が言うと、クルツは黙ってリモコンを操作し、モニターの映像を切り替えた。


 「戦闘技術以上に大きな問題が、"武器の性能差"です」


 「……何よ、それ?」


 「彼女たちの使用していた魔法武器ですが――戦闘データを解析した結果、我々の魔法武器よりも2.5倍以上の出力を持っています」


 「…………え?」


 私の脳が一瞬フリーズする。


 「さらに、魔法の伝達効率も桁違いに良い。現時点ではまだ正確な数値は出ていませんが、明らかに聖霊界の最新技術が使用されています」


 聖霊界の最新技術。


 ……ちょっと待って。


 「……ちょっと待って。じゃあ、彼女たちは"才能がバグってる"だけじゃなくて、"技術の差"でも圧倒的に有利ってこと?」


 「その通りです」


 私は無意識に頭を抱えた。


 ズルくない???????????????

 私たちは、「戦闘力」で負けているだけじゃなかったの!?!?!?

 「技術力」でも「装備」でも、全部負けてるってこと!?!?!?

 私が絶望している間に、幹部たちは顔を見合わせる。


 「……つまり、俺たちは純粋に戦力差で負けてるってことか」


 「はぁ……これはさすがに、ちょっとヤバいわね」


 「戦術の差で埋められる範囲を超えてますね」


 いや、ちょっと待って、幹部たち落ち着きすぎじゃない???

 私だけめちゃくちゃ焦ってるんだけど!!?


 ちょっと!!!

 この状況、もっと焦るべきでしょ!!!??


 「……で、どうするんだ、ボス?」


 ゼーベインの言葉に、私はふと口を閉ざす。


 どうするって、そりゃ――私は椅子に座り直し、脚を組んで冷静な表情を作る。


 「決まってるじゃない」


 私はにっこりと笑った。


 「聖霊界の技術をパク――参考にするわよ!!!」



 「……パクるって言ったよな?」


 「今パクるって言ったわよね?」


 「パクるって言いましたよね?」


 「参考にするって言ったでしょ!!!!!」


 私は机をバンッと叩く。


 「いい? ここまでの戦闘データを見れば明らかよ! 技術の差が勝敗を分けたのよ!!! それなら、"こっちも同じことをすればいい"ってだけの話じゃない!!!」


 幹部たちが、微妙な顔をしている。


 「……いや、でもボス、普通に言うと"技術をパクる"ってことでは?」


 「参考って言ったでしょ!!!!」


 私は叫ぶ。


 「幸い、私は天才よ? 一度見たものは忘れない。聖霊界の技術を学び取って、最強の兵器を作るわ!!!」


 「それってやっぱり"パクる"ってことでは……?」


 「参考にするの!!!!!!」


 こうして。

 私、煉久紫アーカーシャは「聖霊界の技術を学ぶ」という名目のもと、堂々と技術を盗むことを決意したのであった。

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