第3話 瑞草堂の薬師さま
「さあ、ここまでよ。あなたたちは町へはいけないわ。山犬だもの」
あれから無事に下山して山の入り口までやってきた。
道は平らになり、視界が開ける。
離れたところに田畑があり、その遠くに家並みが小さく見える。
シロとクロは鼻をひくひくさせて、真珠の
(いつもは聞き分けがいいのに、どうしたのかしら?)
そこまで考えて、気づく。
籠をおろすと、たんまり摘んだ薬草をかきわけて、底から笹の葉に包まれたある物を取り出した。
「お前たち、これが欲しかったのでしょう」
そう言って包みをほどくと、三角のまっしろなにぎり飯が四つ並んでいる。
それを見たら、もう我慢などできない。
二頭ともしっぽをぶんぶん振って、よだれを垂らす。
「ほら」
一つずつあげるとすぐに食らいついた。
あまりに見事な食べっぷりに、真珠は己のぶんのにぎり飯を半分に割って、それぞれにあげた。
先に食べ終わったシロが残りの一つを物欲しげに見つめる。
「だぁめ。これはあのヒトのものだから」
笹の葉を包み直すと、それを近くの木の枝に引っ掛けた。
「ありがとう」
山に向かって一声かける。
木の葉がさわさわと鳴るその奥。
ほんの一瞬、遠くの木々に人影があったように見えた。
こうして真珠は我が家を目指す。
シロもクロも満足したのか今度は素直に山道を戻って行ったため、一人てくてくと町への道をゆく。
途中、道の横にあるお地蔵さまに手を合わせる母子とすれ違った。
「おや薬師さま、お帰りですか? いつもよりお早いのですね」
「ええ……今日は十分に採れたから」
嘘をつく。
山百合姫が神か妖かは知らないが、わざわざ話して怖がらせる必要はあるまい。
「それでは」
「ええ、ええ。また薬を貰いにうかがいます」
双方が軽く頭をさげて、真珠が遠ざかっていく。
一連の様子を眺めていた坊やが、不思議そうにたずねた。
「おっかあ。なんでみんな、あの人のこと『薬師さま』ってよぶの?」
「これ、指さすんじゃぁないよ。あのお人はね、この
「オニ?」
「……いや、お前には少し早い話だったね。さあ、畑に寄って、そしたらあたしらも帰ろうね」
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