第4話 農婦からお姫さまへ
行きかう者の多いこの町は、よく栄えていた。
実家の
どこの建物よりも長く続く
「真珠さま、今日のお風呂はよもぎですよ」
「ありがとう、なずな」
なずなは嬉しそうに「えへへ」と笑うと、真珠の
まだ幼いのに感心するほど働き者であるとほほえましく思いながら風呂場へ向かう。
漆喰で仕上げた小さな小屋に入ると、ぷうんとよもぎの香りがただよっていた。
足の
最後に頭に巻いた
くるりとしたくせ毛の、短い髪があらわになる。
髪の長いのが当たり前の世で、真珠の名を体現したかのような丸い頭をしていた。
薄汚れた藍の着物をはらりと脱ぐ。
それまで
そうして薬湯を堪能して、裾に美しい花の絵の入った着物を着れば、そこにいるのは実に裕福そうな品のいい女であった。
最後に
少し日が傾きかけている。
湯に入ってぽかぽかした身でぼんやり眺めていると、赤くほてる頬を涼やかな風がなでていく。
山百合の花の香りは消え去り、代わりによもぎの葉の香りが身を包んでいるのが自分でもわかった。
「姉さん!」
その声にはっとして本宅の縁側に目をやれば、真珠に負けず劣らず高価な着物の女が立っていた。
歳は二十代の半ば。赤紫の着物に、まっすぐな髪を美しく結い上げて、いくつもの高価なかんざしが頭を飾った。
凛々しい目元に紅色の唇はそれはもう美人で……しかし、眉根をぐっと寄せて眉間にしわを寄せている。
「まあ、
「心配したのよ。山越えをしてきた旅人が言うには、山賊がでたっていうの」
真珠はすこうしだけ驚いた様子で、「まあ」とつぶやいた。
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