Epilogue 試験場

 さて、この世界に来てから、すでに3ヶ月がたった。


 あの後――わんこラーメンチャレンジの後、どこからか僕の戸籍を特定した学校側から「もし入学するなら面接は免除するけど実力テストは受けてちょ☆」的な手紙が送られてき、これまでの2か月ちょっとはずっと入学実力テストのための勉強をしていた。




 勉強といっても、やってることは割と単純で。


 でてくるであろう単元さえわかれば、僕の魔術を使って完全に記憶、そして理解することができるので、家庭教師君にでてくるであろう分野単元をリスト化してもらい、それについて覚えていただけだ。




 テストに出てくる単元は日本の普通の学校とほとんど同じようで。


 座学は国語、数学(算数)、理科、社会、歴史の5教科のみ。


 まぁ、教科数が少ないといえ、ざっくりとこの世界のことを理解しているだけですべてを知っているわけではないので、ちゃんとすべて暗記するのにはちょっとだけ時間がかかった。毎日頭痛にさいなまれるのもなんかいやだし、一日おきに魔術で定着させていたからね。






 ――ただ、陰陽術を教える学校とうたうだけはあり。


 ほかの学校とは違うテスト――まさかの実力テストがある。


 まぁ、身体能力も神秘の理解も。そのどちらもこの世界でトップな僕はそこまで心配する必要ないのだけど...ほら、ね?手加減を覚えないとすてごろでやりあうときに相手をこう...パーンって破裂させちゃう可能性があるからさ。




 国会議員なだけはありコネをたくさん持っている土御門君に研究所?とやらを経由してアメリカから特殊部隊をよこしてもらい、たぶん100人くらいと共に手加減の練習に励んだ。


 まぁ結局、僕にとっては「箸で水をつかめ」といわれるくらいの難易度だったわけで普通に手加減することは不可能だってわかったから。途中からは身体能力の封印魔術の開発に没頭していたんだけどね。


 その結果、魔力も身体能力も自分のコマンドで解放できたりする便利魔術が出来上がり、僕は満足ってわけ。




 さて、ここまで長々とこれまで僕が何をしていたかを語ったわけだけど。




 ――なんと、今日はその入学試験当日である。


 今は、土御門くんの運転する車に乗って試験会場へ移動している最中。


 どうしてかさっきから外を見ても木しか見えないし、僕の気のせいじゃなければこの先は富士山の樹海なはずなんだけど...これ、ちゃんと試験会場に向かっているのであろうか。


 別に富士の樹海に捨てられても魔術で何とかなるし魔術使わなくともサバイバルの経験はあるから何ら問題はない。だけどさすがに泣くよ?


 今日のためにいろいろ勉強してきたのにそのすべてが無駄になることになるんだから。




 未来に行くことはできても、過去に戻ることはできない。


 それこそ、僕の知るほとんどの神々だってそうだ。唯一例外があるとするなら、全ての時空に同時に存在するなんていうチート能力を持った一柱。


 そもそもあれは世界に縛られる存在じゃないし神としてカウントしていいのかわからないけれど、それが現実なのだ。




 さすがに頑張ったのを無駄にはしたくないし...よし、聞いとこう。




 僕の目の前にある窓――運転室と乗客の乗る場所を分けるやつかな?――を開け、土御門くんに尋ねる。




「ねぇ、こっちの方面で会ってるの?」




「多分あってるはずなんですけどねぇ...これ、樹海に向かってません?」




 窓からひょっこりと顔を出した土御門くんはさらりとそういった。...いやそんな真面目にこっち向いて返事戦でいいからはよ前向かんかい。


 怖いって、さっきからカーブの連続なのにこっち向いてたら事故るでしょうが。運転に集中しなさい。




 手で土御門くんの顔を運転室に押し戻しつつ、続ける。




「もしかして試験が樹海であるってことなのかなぁ?」




「そうなのかもしれませんね...やだなぁ、そんなとこで試験する学校俺だったら行きたくないや」




「死人でも出るんじゃない?隠蔽しやすくそうしてるとか」




「...もしかして、試験で死んだ人を樹海で死んだと隠すためだったりするんですかね」




 割とありそうだな、と。そう思いながら思考を続ける。




 ――僕らが試験会場の場所を知らないのには、ちゃんとした理由がある。


 試験会場に関するお知らせと共に届いたのは住所を表した紙でも場所に印が入った地図でもなく、時間になったら試験会場を示しだすといった不思議な方位磁針だったのだ。


 視てみると、どうやらそれは指定時間になると魔力で針を引っ張るように設計されている――いわゆる”魔道具”といわれるやつで。みんなに視てもらうと、すでに大した力を持っていない土御門くんでも頑張れば読み取れるレベル。




 普通、そんな方位磁針が渡されても「そんなわけあるかよ」の一言で捨ててしまうだろう。


 冷やかしのために応募したバカ者たちも少なからずはいるだろうし、本当に神秘の力を信じている人だけが試験を受けれるようにしかけているのかなって。


 結構やりてだよね、運営たち。この策を思いついたのがだれかはわからないけど、たぶんわんこラーメンチャレンジでであったあのヒスってる女性じゃないだろうなと断言はできる。ほかに運営が何人かいることを証拠づけてるよね。




「それで、あとどれくらいでつきそうなの?」




 車窓から首を出し前を見ると、そこには立派な富士山が見える。 


 距離で言うなら、あと5kgくらいだろうか。


 試験場所についたら方位磁針はくるくるとまわると説明されていたので、近くなら方位磁針の針が不安定になり始めているころだと思うんだけど...




「あー...たぶんこれ、あと少しですね」




 予想的中だった。ということはやっぱり、樹海なんだろうな。試験場所。


 そういえば並行世界で学校の校舎を探したとき、まさかの白神山地の樹海にあったし...もしかしたら運営は樹海が好きなのかもしれない。


 きれいだもんね、樹海。特に樹海を選ぶ理由はないよね、そうだよね。...もし襲われたとしても死ぬことはないだろうけど、何もないことを願いたい。




 外、きれいだなぁ。そんなことを考えながらぼーっとしてると...




「...あ、つきました」




 富士山樹海の入り口。そこで車は止まった。


 土御門くんと一緒に車をおり、樹海を見上げる。




「...樹海だね」




「...樹海ですね」




「...一緒に入ろ?」




「...俺、先に帰りますね」




「あっ、ちょ!」




 僕が止める間もなく、土御門君は車に乗り込み、ドアが半開きのまま発進させた。


 くっ!封印魔術なんて切っとけばよかった!




 そのままぼーっと車もを眺めているも。




 ...後悔後に立たず。進むかぁ。




 樹海内部からやけに人の気配がするし、そこに僕は向かうのだった。



あとがき――――

半ば無理やり一章を完結させましたtanahiroです。

まさかノリで出した新作がこれを超えるとは思ってなかったよ...

まだ続きは思いついていないので構想が固まったら二章の連載始めます。

感想とか、ぜひともよろしくです。


問題の新作

ダンジョン完全攻略するまで終われない配信を始め早10年、配信を切れないことが発覚

https://kakuyomu.jp/works/822139836487985183

読んでね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:03 予定は変更される可能性があります

異世界賢者、現代に転移する tanahiro2010@猫 @tanahiro2010

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ