002 平和な交渉
さて、全員気絶して静かになったのはいいものの。
僕はこれからどうしようかと迷っていた。
「うーん、どうしよう。戸籍を作らせるだけのつもりだったのに全員気絶させちゃったし...何人かは殺しちゃったしなぁ」
このまま強制的に戸籍を作らせることはできるけど、それじゃあたぶんこの政治家たちは僕を消そうとしてくるだろう。
...いやどうだろう?さすがに空飛んだり頭爆発させたりしてるしもう反抗してくることはないかな?うーん、でも軍隊とかは派遣してきそうなんだよなぁ。
「...取り敢えず、こいつらの人格改ざんしてこの国のために働く豚にしよう、うん。この国の人たちがかわいそうだしね」
記憶改ざんだけで大丈夫かな?...いや、さっきみたいな呪いも結んどくか。
一応反日的な動きをしようとしたら死ぬよりもつらい痛みにさいなまれるようにしとこうかな。死んだら不自然だし、これくらいでいいだろう。
そして、これまたもう一度指パッチン。
少し大規模な魔術なので、僕の頭上に魔法陣が現れた。
――《精神魔術 改竄》
魔法陣から色とりどりの光でできた糸が現れ、この場にいる議員全員の脳に巻きつく。あるものはその体をけいれんさせ、あるものは悲痛な叫び声をあげる。
そうすること約5分、ようやくすべての議員の記憶の改竄、そして呪いの付与が終わり、糸が消失した。
一応、あとで逃げ出した議員にもこれはやっとこうかな。僕がいても違和感を持たないようにしとかないと、あとから懸賞金とか掛けられちゃあ困る。
...あれ?この国には懸賞金がない...?警察が懸賞金をかけることはあれど、民事で懸賞金をかけることはできない...やっぱり甘いなぁ、この世界。
平和なのはいいことだ。
「さて、本題本題。僕の戸籍を作ってもらわないとこの国じゃあ何もできないからね」
僕の都合のいいように記憶を改ざんしたんだ。お願いすればすぐに作ってくれるだろう。
そうして僕は、この場に音を外に出さない結界を張り――身体強化をしたまま全力で手をたたいた。
―――バァン!
まるで対物ライフルの発砲音。
それが、僕の
まぁ僕は対物ライフルの発砲音なんて聞いたことないんだけどね。僕も耳が痛かったし、それくらいの大きさはしたでしょ。知らんけど。
そうしていると、徐々に死んだように倒れていた議員たちが起き始めた。
「あぁ...ここは...え?耳から血出てる?なんで??てか何も聞こえない???」
少しは離れてるとはいえ、付近で轟音が鳴ったんだ。
魔力で強度を強化してないその身じゃ、鼓膜が破れるくらいはしたんだろう。
話を円滑に進めるためにも、一応治してあげよう。耳が聞こえないんじゃ不便だろうしね。
外で爺さんにかけてあげたのと同じ回復魔術を、全員にかける。
うーん...やっぱり遅い。
魔術を使うためには、空間に存在している魔力を操る方法を、体内にある魔力を使用する方法がある。
そして、他人に直接干渉する魔術――さっき使った精神魔術だったり回復魔術――は体内魔力を使う。
故に、相手の体内魔力が多いほど効率がいいんだけど...どうやら、この世界では魔術を使う文化が廃れてしまったせいであまりにも人の持つ魔力量が少ない。
だから、簡単な回復魔術でもしっかりと書けるにはちょっと時間がかかるわけだ。
まぁ、そのおかげといってはなんだけど。
空間に存在してる魔力に関しては僕の世界よりも豊富で、ここならばりばり強力な攻撃魔法を打てる。謎の特殊部隊に使った広域生物殲滅魔法【
具現化魔術も、割と簡単に使えそうだ。そうそう使う機会なんてないけどね?てかない方がいいんだけども。
頭を振り払い、あたりを見渡す。
耳から出ていた血がいきなり消えたことにおどろき、耳を触って確かめている物。
僕を見ながら「こいつ誰だっけ?」みたいな顔をしてる者――こいつはあとで改竄しなおしておかないと。
そして、僕を見て膝をついている者。
うん、皆起きている。
「さて、全員起きたかな?」
気づかれないように僕のことに気づいていなかった議員を即興で造った異空間に隔離し、笑みを浮かべて話しかける。
徐々に虚ろになっていく議員たちの目。
それを見ながら、僕は続ける。
「みんなにはこれから、僕の戸籍を作ってもらいたいんだ」
「「「...はい」」」
完全に目が虚ろになった議員たちは、ちゃくちゃくと僕の戸籍を偽造する準備を始めた。...ふふっ。
僕のやってること、完全に悪役だね。まぁ、それなりに人も殺してるし悪といわれても否定はできないんだけど。
そんなことを考えながら、僕はこの場から立ち去るのだった。
向かうのは、そう。
逃がした善良な議員たちの場所である――
――――――――――――
逃げていた。
人の形をした化け物から。
俺は、この国――東洋の島国こと日本で議員をしている、由緒正しき陰陽師の家系の長男。
ようやく選挙に受かり、この異国の工作員のあふれる国会を正そうとしていたのに――俺じゃあ、到底勝てないような強さの化け物に逃げている。
こんなざまだ。
「くそっ!どうしてあんな奴が国会に来るんだよ!!」
陰陽師の家系といっても、できることは少しだけ。
すでにほとんどの妖は封印されているため、戦う必要のなかった陰陽師は廃れていき...できることは、対象の
そしてその力を使って――俺は見た。
あの、日本列島よりも膨大な霊力のオーラを。
そして――例えどんな生物が立ち向かおうとも指先一つで消し飛ばされてしまいそうなほどの力を。
...立ち向かうことなんてできない。立ち向かおうとすることなんて、俺にはできない。
この世界にも、一応霊力――あいつらのいう、魔力だったか――を観測する組織はある。
一応、そこは秘密兵器なども用意しているようだが、アレには絶対に勝てない。
そんな強大な存在が、国会議事堂に訪れてきた。
その事実が、その恐怖が、俺を支配し、足を動かす。
「見えた...ッ!」
すでに実家は目前。
俺は陰陽師の力を使ってできることなどみじんもないが、親族に頼み込めば逃げるくらいはできるだろう。
そう思い、実家への門に手をかけた瞬間――足元に穴ができ、俺は吸い込まれていくのだった。
――――――――――――
結界は張った。
出れないように。
法則も支配した。
僕に抵抗できないように。
そして、僕は一気に逃げた人を集めるため――転移の魔術を使った。
本来、この魔術は相手の座標がわからないと転移させることはできないのだけど――もちろん、呪いのおかげで相手の座標はわかる。
一人短時間で馬鹿みたいな距離を逃げている人がいたけれど、そんなものすべて無駄。
指を鳴らした瞬間、逃げ出した人すべてが僕の目の前に現れた。
「やあ」
最初の挨拶は先ほどと一緒。
だからか、みんなひどいくらいにおびえている。
めんどうだな、説明するの。
別にこの人たちは殺したいわけじゃないし...よし。
「君たちに一言。国会の屑ども――あぁ、工作員たちといった方が速いかな。あれらはみんな消したから安心してほしい」
取り敢えず、目の前のみんなが僕から逃げた後何があったのか説明することにした。
そしたら、僕の記憶とかもろもろ脳に焼き付ける魔術も承認してくれるでしょ。知らんけど。
そして、僕は説明するのであった――
あぁ、驚いたことといえば。
一応知ってるには知っていたけど。まさか陰陽師とやらの家系の人が国会にいるとは思わなかったよ。
仲良くできたらいいな、おもしろうだし。
あとがき―――――
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