第10話
「ハイハイ、俺らはこっち。」
大介の襟を掴んだ萬田は刑事課の手前にある生活安全課のドアを景気よく開けた。
「おはようございます。皆さん、お待ちかねの新人、烏丸君でーす。」
部屋にいた全員が一斉に振り向いて大介を見た。自分の机に座っていた課長がニコニコしながら2人に手招きをした。
「よう来たなぁ。待っとんたんやで、烏丸君。まあ、いろいろ思うところはあるやろけどな、ウチは君を大歓迎や。」
「あの俺、刑事課に配属なんですけど…。部屋を間違えました。」
引き返そうとする大介の腕を萬田は離さない。
「大介、お前は今日から生安や。お前に刑事は危なすぎる。」
大介は一瞬大きく目を見開き、固まった。
「そういうことだったんですね…」
うつむく大介を見て、課長はその肩に手を置いた。
「お前が刑事になるのを大喜びしてたのは聞いてるで。こんな事になって思うところ満載やと思う。けどなウチで頑張って欲しいんや。」
「大介、生安が嫌やったら免許センターに回したるわ。今から署長のとこ行こ。課長、残念ですけど、また別の奴をお願いします。」
ニッと笑う暁が大介の腕を掴んで部屋を出ていこうとした。
「ちょっ…!お、思うところなんて、とんでもないです。よろしくお願いします。」
「ホンマにええんか、ここでええねんな?」
萬田がジロリと大介をにらんだ。
「もちろんです。ここなら捜査もできますし。」
萬田の手を急いで振りほどいた大介は萬田と課長に訴えた
「ウンウン、よろしい!萬田、烏丸のこと、頼んだで。」
「もちろんですよ。」
まだ釈然としない大介の頭を萬田はワシャワシャと撫でた。そして大介を部屋の奥へと連れて行った。
「あのな、この高村班が俺らの班。ここがお前の席で俺の隣。今から班のメンバー紹介すんで。」
萬田は糸のような細い目をした50代の穏やかそうな男に目配せした。
「こちらが班長や。」
「班長の高村や。ウチの客は女性や少年、高齢者とか弱者関係やな。と言ってもうちの署は人が少ないからよそに応援で呼ばれることが多いんや。まあいろんなことするわ。よろしくな。」
次にニコニコする高村の隣に立っていた男が微笑んだ。男は萬田より少し背は低いもののサラサラの髪に涼しげな目元、ダークスーツをピタリと着こなすさわやか系イケメン。
「僕は柴原や。烏丸君よりちょっとお兄さんやな。よろしく。」
柴原の次はコーヒーを片手に歩いてきたダンディーなオヤジと、萬田の隣の席に座っていた女が立ち上がった。女は肩先に揃えたストレートの髪に意志の強そうな大きな瞳。ぱっと見は怖そうだがにっこりと微笑んだ。先にオヤジが口を開いた。
「俺は藤崎や。この中では一番の古株や。わからんことあったら聞いてな。」
「最後はウチやね。ウチは調所です。所属は刑事課なんだけど産休中の今林さんに代わって必要な時だけ応援に来てます。よろしく。」
「初めまして、烏丸です。頑張りますんでよろしくお願いします。」
まだ複雑な顔をした大介はほぼ直角にお辞儀をした。
高村班は性犯罪も扱うためか被害女性や子どもを怖がらせることのないようなメンバーで構成されていた。大介より少し年上のさわやか好青年の柴原、しっかり者の姉御肌の調所、ダンディーなオジサマの藤崎、そして大介の守り役である萬田である。
高村は大介の様子に満足気に頷いていたが、ハッとした顔をすると上から下までマジマジと大介をながめた。
「あんな、来たばっかりやけど早速仕事してもらおか。萬田、烏丸連れて流町商店街に行ってくれ。」
「あれ、やっぱりウチにまわって来たんすね。」
と萬田は少々ゲンナリ。
「そやで。そやけどな、お前には無理でもコイツやったらいける。烏丸に頑張ってもらお。」
高村の言葉に萬田もハッとした顔つきになった。
「ほんまや。大介、お前はええ時に来てくれたわ。ほな行こか!」
「…あ、はい?」
萬田は大介の肩に腕をまわし、訳がわからない大介を引きずるようにして駐車場に向かった。
萬田に連れられて大介は流町商店街へ着いた。大介はキョロキョロと商店街の店をながめながら萬田の後ろを歩いていく。
「俺、この商店街は初めて来たんですけど、なんかにぎやかですね。」
「ああ、いつもにぎやかなんやけど、特に今日は祭りやからな。」
「商店街のイベントですか?どこも集客に頑張ってるんですね。」
キョロキョロする大介を横目に萬田は小声でボソリとつぶやいた。
「ま、今日のヒーローはお前やけどな。」
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