第11話
活気あふれる商店街の様々な店を見ながら5分ほど歩き、二人は商店街の中にある雑居ビルの階段を上がった。
「すんません、南淀川署の萬田です。」
萬田が軽くノックをすると中から男がドアを開けた。
「おお、萬田さん、班長さんから聞いてるで。虎ん君、出てくれることになったんやってなあ。子どもら大喜びやで。」
「そうですねん、会長。虎ん君も出ますんで、今日はよろしく頼みます。」
虎ん君は南淀川署のキャラクター。なんでも熱狂的なタイガースファンの署長の肝いりでできたものらしい。タイガースのトラッキーを微妙にした感じの虎ん君はこれでも毎年、ゆるキャラコンテストで上位に入賞している有名人気ゆるキャラ。今回、商店街イベントの目玉の一つというところ。
「初めまして、烏丸です。人気者の虎ん君、出ることになって良かったですね。」
大介は、会長と言われた少し頭髪の寂しい初老の男に挨拶をした。
「この通り、虎ん君もヤル気満々ですわ。任しといてください!」
萬田はバシッと大介の背中を叩いた。言われた意味がわからず大介は不安げに萬田を見た。
「なるほど!烏丸さんなら虎ん君に入れますねえ。この前、萬田さんが来た時は虎ん君に入れるんかと心配してましたんや。虎ん君おらんかったら客引きの目玉やのにどないしよかと思ってね。いやあ、ええ人連れてきてくれましたなあ。烏丸さん、頼みましたで。」
会長は小柄な烏丸を上から下までマジマジと見る。
「何驚いてんねん。一番若いお前が虎ん君になるに決まっとるやろが。今日のスケジュールはなあ、防犯教室で上白川さんの説明のあと、実際に泥棒を捕まえるところをやるわけや。その後に虎ん君が防犯のチラシとティッシュ配りに握手会、それから個別相談会や。」
「…お、俺が虎ん君になるんですか?無理っすよ!着ぐるみなんて入ったことないし。」
尻込みして帰ろうとする大介のズボンのベルトを萬田は後ろから素早くつかんだ。
「アホめ。せっかく捕まえた虎ん君を逃がすわけないやろ。観念せえ!」
萬田は逃げようと暴れる大介を小脇に抱えた。
「萬田さんは、えらい力持ちですな。仲ええことはよろしいなあ。」
会長はほほえましいとばかりにニッコリ。
「チラシとティッシュは会場の裏に用意してありますわ。虎ん君の着ぐるみは隣の部屋に置いてますんで、そっちで着替えてください。ほな会場で。」
会長は、用が済んだとばかりに出て行ってしまった。
「うう。わ、わかりましたよ。やればいいんでしょ。じゃあもう虎ん君になっといた方がエエんですね。」
観念した大介が床におろされ、隣の部屋に行こうとした。すると萬田がジロリと睨んだ。
「お前、なに楽しようと思うとる。虎ん君になる前にお前には大事な役目があるんや。一緒に来い。」
嫌な微笑みを浮かべた萬田は大介に手招きして隣の部屋に入った。
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