第二章 新しい人生

第9話

 カーテンの隙間から入る朝の日差しがまぶしい。大介はピリピリする額の痛みで目が覚めた。なんでデコ、痛いん?

薄く目を開けると茶トラ猫が大介の額を一生懸命に舐めている。

「早よ起きろ!朝飯行くで。俺は腹が減ったんや。」

「痛いですよ。暁さんは猫舌なんだから考えてくださいよ。」

「なんやご不満かい。じゃあ明日は虎パンチで起こしたるわ。」

ビビる大介の前で瞬時に暁が大虎になった。

「しばらくは人間の飯で我慢したるけど、キャットフードが届いたら俺の飯はお前が用意するねんで。」

「暁さん、人間の飯食えるんなら人間の飯でええやないですか。」

「俺はどっちでもええねんけど、俺の飯代はお前の給料から引き落としになるらしいで。」

「え?南極さんが俺の面倒みてくれるんじゃないんですか?」

「あのな、南極さんが見るのはお前の分だけや。職場以外では俺はお前のペットということになっとんねん。飼い主がペットの面倒みるんは当たり前やろ。しかも俺は実質お前の面倒みてくれるありがたいペット様やで。」

そんな設定になってるなんて…

人型に変化した暁は太い腕を曲げて大きな力こぶを見せつけた。

「そうそう人型の俺、少食で済むと思う?人型でいてほしいなら覚悟しとけよ。」

そうだった。スタイリッシュな毘沙門天だが本来は強力な武神。着痩せするイケメンでも体は基本マッチョ。暁はその毘沙門天の影武者なのである。

暁はご機嫌で、ガックリとうなだれる大介を引きずって朝食の用意されている居間へ行った。


 朝食後、暁と大介は暁の運転する車で出勤することになった。鼻歌を歌いながら滑らかに萬田こと暁はハンドルをまわす。

「今日だけやで。明日からはお前が運転せえよ。」

助手席の大介は初出勤に緊張していた。駐車場に車を止めると萬田と大介は南淀川警察署の建物に入って行った。階段を上り、二階の廊下を進む。廊下の突き当りに刑事課のドアが見え、大介は歩みを早めようとした。しかし、刑事課のドアにたどり着く事はできなかった。

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