第8話
マ、マジ?
狸の三郎と眷属の虎の暁と白蛇の白夜は観音様、神様達と楽しく盛り上がっている。
「なに遠慮してんの、ほら飲んで!」
いろんなところからビールを注がれるもののいっこうに酔いそうもない。わけのわからないまま宴会はお開きとなった。帰る仏様、神様達をお見送りした後、それぞれが部屋に戻ることになった。
「俺等の部屋はこっちや。」
病院から持ち帰った大介の荷物を背中にのせた暁は大介を先導した。導かれた部屋は古いがこざっぱりした感じの6畳間。南極の気遣いで畳は新しいものになっていた。
「とりあえず布団だけ出しといた。後は明日やな。お疲れさん。」
暁は背中の荷物をダンボールの隙間に降ろすと大あくび。そして大きな虎なのに前足を体の下に曲げて入れ、コンパクトな香箱座りをした。
虎も香箱座りすんねんな。さっきよりはコンパクトやけど、…無理やろ。
大介は部屋の入り口で固まってしまった。一人暮らしの大介の荷物はそんなに多くはない。だがこの6畳間に大きな虎と暮らすのはスペース的に無理。相変わらず困り顔の大介を暁は不思議そうに見た。
「なんや?まだなんか困りごとあるんか?」
「…いや、あの、この部屋に暁さんと俺って狭すぎませんか?」
フフンと鼻を鳴らした暁はフッと姿を消した。
「あれ?暁さん、どこですか?」
大介が見回すも部屋の中にはダンボール箱や荷物しかない。するとダンボール箱の影から小さな顔がのぞいた。
「ニャーン。」
足元から聞こえた声で下を向くと大きな茶トラ猫がキラキラとした目で大介を見上げている。
「あれ?自分、どこから来たん?猫ちゃん、暁さんがどこ行ったか知らん?」
動物好きな大介は思わず猫を抱き上げ、モフモフの毛並みに頬ずりした。
「どこって、俺はここにおるやん。」
「うへえ!猫がしゃべった!」
驚いて大介は茶トラ猫を放り投げた。茶トラ猫はひらりと畳に飛び降りた。
「お前、乱暴やなあ。このサイズなら2人でも大丈夫やろ?仕事の時以外はこの姿になるから心配すんな。」
「た、確かに猫なら大丈夫ですね。」
「そうやろ。やからな、お前のために化けたるんやし俺の飯はお前が用意せえよ。銘柄は指定するで。」
暁は最高級のキャットフードの名前をあげた。その銘柄に大介は思わず声を上げた。
「暁さん、それめっちゃ高いやつですやん。近くのスーパーで買えるのんでもそこそこ美味いんちゃいますのん。」
「アホめ。お前がその気やったら俺、虎のままでおってもええねんぞ。そうなったら俺の飯はなんや?キャットフードでは足らんわな。」
「え?え?え?」
「フフン、お前でもええねんで。まあそれやったら一食で終わってまうけどな。」
前足の爪をカシカシとかじりながら暁は意地悪な目でジロリと見上げた。
「ゲ!…わかりました。でもできるだけ少食でお願いします。」
「ホンマにお前はアホやの。栄養たっぷりの美味い飯をしっかり食わんかったら主様から預かった大事なお前を守れんやろが。早うネットでたくさん買えや。」
暁は嬉しそうに尻尾をクネクネ。
マジか?畳にペタリと座り込んだ大介の前に暁はくわえたスマホをポトリと落とした。なんでこんなことに?大介はこめかみを押さえた。
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