第2話 騎士団長と勘違い
森を抜け、石畳の道が見えてきた。遠くに城壁がそびえ立ち、王都の門が夕日に照らされている。
胸が高鳴った。ファンタジーRPGのオープニングそのままの景色だ。
「着きました。あれが王都です」
リディアが微笑む。その頬はほんのり赤く、どこか誇らしげだ。まるで俺を案内できること自体が嬉しいらしい。
「いやあ、助かったよ。リディアさんがいなかったら、森で迷子になってた」
「い、いえっ……そんなふうに感謝されるなんて……!」
彼女は慌てて顔を背ける。耳まで赤い。
いや、本当にお礼を言っただけなんだけど。どうしてそんな反応になるんだろう。
門の前では、長身の女性が腕を組んで立っていた。鮮やかな赤髪をひとつに束ね、凛とした雰囲気をまとっている。鎧の意匠もリディアより格段に豪華だ。
「リディア、その者は?」
「団長! この方は……ユウ様です!」
団長。つまり彼女が騎士団長か。
リディアが熱を帯びた声で俺を紹介するから、余計に目立つ。門番たちまで俺に視線を集めてきた。
「は、はじめまして。俺はユウといいます。えっと……よろしくお願いします」
軽く会釈したつもりだった。
しかし団長――エレナは、固まったように俺を見つめている。
「………………!」
次の瞬間、彼女の頬にわずかな紅が差した。
強面の騎士団長が、ただ挨拶しただけで照れるとか……いやいや、そんなバカな。
「ユウ……あなた、不思議な人ね」
「え?」
「言葉にできないけれど……惹かれる。初対面でこんな感覚を抱くなんて……」
エレナがわずかに目を伏せる。その仕草はまるで乙女のようで、門番の兵士たちが目を丸くしていた。
いやいやいや、俺は何もしてないから!
リディアがムッと口を尖らせる。
「団長、ユウ様は私が最初にお守りしたのです!」
「……それがどうしたの。守るのは騎士として当然よ」
二人の間に、見えない火花が散った。
まさかの騎士団内三角関係、勃発? いやいや落ち着け俺。
そんな修羅場めいた空気の中、通りがかったパン屋の娘が俺に声をかけてきた。
「お兄さん、旅人さん? 良かったら焼きたてのパン食べていきません?」
「あ、ありがとう」
差し出されたパンを受け取ると、彼女はなぜか頬を赤らめて胸に手を当てる。
「……どうしよう、心臓がドキドキしてる……」
「は?」
リディアとエレナが同時にパン屋の娘を睨んだ。
……あれ、俺、何もしてないよな?
門のざわめきの中、背後から別の兵士が駆け寄ってきた。
「団長! 王女殿下がお呼びです。『ユウという青年に会いたい』と……」
「「……王女殿下が!?」」
リディアとエレナが声を揃え、俺の両腕を同時に掴んだ。
いや、ちょっと待て。なんで王女まで俺に興味を……?
俺の知らぬところで、好感度オーバーフローはますます暴走していくのだった。
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