異世界好感度オーバーフロー

MARC001

第1話 気づけば異世界、なぜかモテモテ?

目を開けた瞬間、鼻先に広がったのは湿った草の匂いだった。

 見慣れない青空。雲は高く、鳥の鳴き声がやけに近い。


「……え、ここどこ?」


 ついさっきまで俺は、駅前のコンビニで肉まんを買おうとしていたはずだ。なのに、気がつけば森のど真ん中に寝転んでいる。手には肉まんどころか、小石しか握っていない。


 どう考えてもだろう。アニメでよく見るやつだ。けれど、俺にはチート能力なんて――


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 声をかけられ、振り向いた。そこには銀色の鎧を着た若い女騎士が立っていた。汗に濡れた前髪が光をはじき、真剣そのものの瞳がこちらを射抜く。


「け、怪我は!? 魔物に襲われてはいませんか!?」


「あ、いや……俺は元気です」


 そう答えると、彼女はホッと息をついた。次の瞬間、頬がほんのり赤く染まる。


「……よ、よかった……! 初対面なのに、なんだか安心します」


 え、今なんて言った? 俺と話しただけで安心って……そんなことあるか?


 女騎士は自己紹介をしてくれた。名前はリディア。王都の騎士団に所属しているらしい。緊張気味に言葉を選びながら、それでも俺をじっと見つめ続ける。


「えっと……俺、ユウっていいます」


 名乗った途端、リディアの目がさらに潤んだ。


「ユウ様……素敵なお名前ですね」


 いや、ちょっと待て。名前言っただけで「素敵」扱い? しかも様付け?


 森を抜ける途中、リディアはやけに距離を詰めてきた。肩が触れそうなほど近い。鎧がかすかに軋む音と、草木を踏むリズムが妙に心臓に響く。


「あなたといると……心が落ち着くんです」


「俺、なにもしてないけど……」


「それが不思議で……あの、もし良ければ王都までご一緒していただけませんか?」


 まるで護衛されてるのは俺じゃなく、リディアの方だ。いや、なぜだ。俺はただの一般人で、転生チート能力も知らないのに。


 そう思った矢先、森の奥から低いうなり声が響いた。


 黒い毛並みを揺らす狼のような魔物が現れたのだ。牙を剥き、赤い目がぎらつく。


「ユウ様、下がって!」


 リディアが剣を抜き放つ。だが、魔物は彼女を無視し、真っ直ぐ俺へと飛びかかってきた。


「う、うわっ!」


 反射的に両手を突き出した瞬間、眩しい光がほとばしった。

 狼は悲鳴を上げて吹き飛び、木々をなぎ倒して消えていく。


「な、なんだ今の……俺、何もしてないのに」


 掌がまだ熱を帯びていた。


「やっぱり……ユウ様は特別な方なんですね」


 リディアは頬を染め、憧れるように俺を見上げる。

 俺の好感度ゲージが、なぜか最初から振り切れているように見えた。

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