第3話 王女の微笑みは勘違いの始まり
豪奢な赤い絨毯が廊下いっぱいに敷かれていた。
壁には大きな絵画と金色の燭台、天井にはきらびやかなシャンデリア。
「す、すげえ……ゲームの王城そのまんまじゃん」
ぽかんと口を開ける俺に、両脇のリディアとエレナがきゅっと腕を絡めてくる。
いやいやいや、近いって! 鎧ごしでも柔らかい感触が伝わってきて心臓に悪い。
「ユウ様、どうかご安心を。王女殿下はお優しい方です」
「……私がいれば、何があっても大丈夫よ」
二人が同時に言うから、余計に緊張する。俺、ただの一般人なんだけど。
重厚な扉がゆっくりと開いた。玉座の間に差し込む光の中、ひとりの少女が立ち上がる。
――王女。
真っ白なドレスに長い金髪。透き通るような碧眼がこちらをまっすぐ見据えていた。
ただ歩み寄ってくるだけで、空気が震えるように感じる。
「……あなたが、ユウなのですね」
澄んだ声に思わず背筋が伸びる。
「あ、はい。ユウっていいます。突然呼ばれてびっくりしましたけど……」
言葉を選んで頭を下げる。だが次の瞬間、王女の頬がほんのり染まった。
「――なんて温かな響き。あなたの声、胸に届きました」
「へ?」
いやいや、挨拶しただけなんだけど!?
リディアが「まただ……」と呟き、エレナが「殿下まで……」と肩を落とす。
俺にはわからないが、王女の好感度ゲージが振り切れた音が聞こえた気がした。
王女は玉座の前まで来ると、俺の手を取った。
柔らかな指先が震えている。
「ユウ……私は、ずっと夢に見ていました。世界を救う《運命の人》を」
「え、えぇ!? 俺、ただの――」
言いかけたが、王女はさらに言葉を重ねる。
「あなたと出会った瞬間、確信しました。私の心は、もう……」
彼女の唇が震え、今にも続きを紡ごうとしたとき。
「殿下っ!」
慌ただしく飛び込んできた兵士が声を上げた。
「魔王軍の斥候が国境に現れました!」
場の空気が一気に張りつめる。
王女は振り返り、厳しい眼差しに変わった。
「……そう。ユウ、あなたを危険に巻き込みたくはありません。けれど……」
再び俺を見つめ、切実な声を落とす。
「どうか、この国を守る力を貸して――」
いやいやいや! 俺はただのコンビニ帰りだって!
だけど、この場の全員の視線が俺に集まっていた。
逃げ場なんて、もうどこにもない。
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