九月の夜の海辺の記憶。
心のなかに静かにあり続ける情景は、音や匂いまでもを丁寧にすくい上げてとどめているのです。
静かな描写の連なりです。
けれどその行間には、満ちることのない深い孤立と微かな安らぎが滲みます。
読むと自分までもが、淡々とした語り口に導かれるままに、夜の砂浜で静かに座っているようです。
光の定かでない残光の世界。
そこには、青墨みたいな静謐な波が視界に波打つだけです。
会話の乏しい文面の佇まいが、このエッセイに独特の風韻を与え、読む者の感情を静かに揺らします。
この短い文章の奥には、若い夜の静かな心が、密やかに息づいています。
若い時間の満ちた夜、所在ない状況を愛おしく思えるすべての人へ届けたい。
そんな、掌編です。