第10話 見せたい人

「見せたい人?」

「はい。私に歌う楽しさを教えてくれた大切な恩人です。歌手になった私を、テレビに映る私を、少しでも早く――」


 Aルームの扉が開き、会話が終わった。

 虹川さんとリアがドリンクを片手に戻ってきた。

 硝子堂さんは小さく息を吐き「少し休憩します」とこぼして座り込んだ。

 歌手になった自分を、テレビで観てもらう――彼女が抱える焦りがほんの少し垣間見えた気がする。

 短い休憩のあと、ダンストレーナーの手厚く厳しい指導のもと進展があった。


「どうですか!」


 虹川さんは数十秒の振り付けを見せて、力強い鼻息交じりで目を輝かせる。

 ダンストレーナーはかるーく頷く。


「いい感じだよ虹川みらい。さすが天原に憧れてるだけあるね」

「ありがとうございます!!」


 眩しい笑顔には、努力を惜しまない汗が滲んでいる。

 硝子堂さんは、やはりまだダンスの動きが硬い印象が残る。

 ダンストレーナーは「んー」と唸りつつも笑顔で頷いた。


「玲奈も前半よりだいぶ良くなったね。あともう少し力を抜けば、ダンスになるよ」

「はい……ありがとうございます」


 硬い表情に張り付いた汗と、トレーナーの評価に納得していない表情だ。

 まだレッスンは始まったばかりなのにな――無駄に急ぐといい結果は得られない。


「リアはもう完璧だね」

「でしょーもっと褒めてもいいよー」


 もう一度ダンスをしてもらったが、リアの動きは全て無駄がない。

 愛らしいターンとキレのあるステップを踏む。

 綺麗と可愛さを両立させた――まさにカリスマ性を大いに発揮できる素質がある。

 ただ、少し気になるのは熱意が足りないように思えた。

 虹川さんや硝子堂さんは目的がある。

 リアは……ただ楽しそうという興味だけ。

 彼女の才能に改めて胸が躍るものの、俺の背中は別の意味で冷や汗をかいていた。


 ダンスレッスンが終わり、スタジオの待機場所で3人を集めた。


「よし、初のダンスレッスンはいい感じにスタートが切れたな。3人とも、デビューに向けてのレッスンはまだまだ始まったばかりだ。焦らず行こう。無理のし過ぎで体調を壊しても意味はない。帰ったらしっかり休むんだぞ」


「はい!」

「……はい」

「はぁーい」


 さて、会社に戻る前に彼女たちを家に送らないとな。

 助手席にリアが乗り込む。

 後ろに虹川さんと硝子堂さん。


「でもまさか輝ちゃんに会えるなんて思わなかったや」


 虹川さんはもう一度サイン色紙を取り出した。

 

「まさかプロデューサーをしていたなんて、予想外ですね」

「アタシ、ちょっと緊張しちゃったかも。というか後ろの子たち、なんか感じ悪くなかった?」


 リアは隠す気もなく、天原さんの後ろにいた少女たちを思い出しては唇を尖らせた。


「えぇー? そうだったかなぁ」

「小馬鹿にしているような感じはしましたね」


 虹川さんにいたっては、憧れの存在を前にガチガチだったから少女たちを気にする余裕がなかったのだろう。


「あの黒羽プロモーションからデビューする子たちだ。しかもあの天原輝にプロデュースしてもらえるんだ。こりゃなかなかに手強そうなライバルだよ」

「うぅプロデューサーがそんなこと言わないで下さいよぉ!!」


 虹川さんの腹の底から吐き出す大きな声が車内に響く。


「いやいや、素質なら絶対負けていないぞ。これからレッスンを重ねていって、動画で『Shiny Prism』の魅力を伝えて行こう!」

「そうですよ! ねっ玲奈ちゃん、リアちゃん!」

「んーそうだねぇ」


 リアはスマホを眺めながら、なんとも気のない返事をする。


「そうですね……」


 硝子堂さんは窓越しに外を眺めて返事をする。

 うーん、テンションの落差が激しい――。

 

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Shiny Prism 空き缶文学(迷走中) @OBkan

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