第5話 ざわつく事実
虹川さん、硝子堂さん、リアのユニット名は「Shiny Prism」。
バラバラな3人だが、可能性を秘めた原石たちなのは間違いない。
星よりも輝く宝石になれるよう、俺なりにできることをしたい。
それが、俺を拾ってくれた大門寺社長と事務所への恩返しになるだろう。
社長の熱意ある言葉に影響を受けたのもある。
それだけじゃない――ステージに立つ彼女たちの背中を、観たくなった。
素人の俺にどこまでできるか、不安の方が強くてもだ。
「よし」
ネクタイを締め直し、事務所の廊下を一歩ずつ進んだ。
「プロデューサーさん、忘れ物ですよー」
馴染みのある優しい声が聞こえ、俺は声色高く返事をしながら振り返る。
灯守さんが何百ページとありそうなファイルを手に駆け寄ってくれた。
「あれ、俺忘れ物しましたっけ?」
背筋を伸ばし、俺は手にあるタブレットとスーツのポケットを触ってみた。
財布もスマホもある、一体なにを忘れたんだ?
「社長がまとめた連絡先のリストが入っている資料です。近くのレッスンスタジオからテレビ局の関係者まで、社長がこれまで繋いできた人脈の結晶といっても過言じゃありません」
「そんな貴重なものをいいんですか? ありがとうございますって……おもっ!」
分厚いのは見て分かったのだが、俺の予想よりも遥かに重かった。
両腕がグンッと持っていかれそうなり、下手をすれば関節が外れていたかもしれない。
こんな重たい物を抱えながら走るとは――灯守さん、魅力的過ぎる!
「す、凄い重みがありますね……」
「でしょう? それだけ大切なプロジェクトなんです。とはいえ、大門寺プロダクションで頑張るんですから、あまりひとりで突っ走らないようにお願いしますね」
じんわりと胸に沁みる温かさを貰い、俺は大きく「はい!」と返事をする。
灯守さんとここで別れ、少し重かった俺の足取りは軽やかに動きだす。
虹川さんたちがいる四畳半ほどのレッスン室まで駆け走り、勢いよくノックをする。
『開いてまーす!』
虹川さんの大きな声が返ってきたので、すぐに扉を開けた。
ほぼ同時に、芯の通った声が響く。
「あり得ない!」
もう不穏な空気が漂っている。
こじんまりとしたレッスン室の真ん中に3人がコソコソ話をするかのように集まっていた。
硝子堂さんがリアに詰めるように指をさす。
リアはスマホを握りしめて、傾げる。
虹川さんは……状況をよく分かってなさそうだ。
「どうしたんだ?」
未知なる恐怖を想像しながら聞いてみる。
硝子堂さんは指を引っ込めて「なんでもありません」と静かに首を振った。
「あの、プロデューサー!」
元気よく手を上げ、指先までしっかり伸ばした虹川さんは、俺の相槌を見るや否や言葉を続けた。
「わたしたちって恋愛禁止ですか!」
「えぇ? うーん大門寺プロダクションのルールだと、確か個人にまかせる形になってる。ただ、デビュー前から恋人がどうこうってなるとファン獲得やライブに少し支障がでるかもしれないなぁ」
「ライブに支障……」
硝子堂さんの呟きは鋭く尖っていた。
「えぇーのんちゃんと別れたくなーい、ダメだったらアイドルやめるもん」
唇を尖らせたリアの発言に耳を疑ってしまう。
別れたくない?
「ちょ、ちょっと待てリア、今なんだって? のんちゃんって友達じゃないのか?」
「のんちゃんはアタシの彼氏。
背中に氷水を流された衝撃が全身に襲う。
勝手に友達かと思い込んでしまった。
まさかの彼氏持ち――社長ぉ! せめて備考欄に書いてくれても良かったじゃん!
こういう時は初動が大事なのか? それともデビューまで伏せた方がいいのか?
どうすりゃいいんだ。個人にまかせるといっても、まだ学生なのに!
「ライブに影響する可能性があるなら、外れてもらったほうが良いと思いますが」
「えぇ?! ダメだよ玲奈ちゃん! リアちゃんのダンス凄いんだよ? それにリアちゃんはすっごい輝きを秘めてると思うし、玲奈ちゃんの繊細な歌声も欠けちゃダメ。ですよね、プロデューサーぁ!」
そんな捨て猫を拾ったような眼差しを俺に向けられても……。
「待て待て、ストップ、落ち着け、とにかく一旦社長に話をするから」
まだ始まったばかりなのに、胃がギュッと締まったように苦しくなる。
頼むから素人には優しくしてくれよぉ。
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