第4話 始動Shiny Prism

 ここは都内から少し離れた場所にある小さな芸能事務所、大門寺プロダクション。

 俺たちは事務所内の会議室に集まった。

 

「大門寺プロダクション初のアイドル誕生に向けて、改めてスケジュールを説明しよう!」


 大門寺社長は高らかに渋い笑い声をあげた。

 体格から溢れ出る自信が、もはや神々しいレベル。

 思わず薄目になってしまう。

 俺だけじゃなく、3人のアイドル候補生も同じ気持ちだろう。

 虹川みらい。

 硝子堂玲奈。

 煌坂リア。 

 今日初めて彼女たちは顔を合わすことになった――。

 

「さて、虹川くん、硝子堂くん、リアくんがまず目指すのは来年のデビューライブだ。都内にある小さなライブハウスで行うことになっているぞ。それまでにレッスンを重ね、まだ原石の君たちを星に負けない宝石にするのがプロデューサーの仕事だ。よろしく頼むよ!」


 原石を星に負けない宝石に……また熱い言葉を投げかけてくる。

 胸を揺さぶる激励に、俺の口角が上がる。


「はい! おまかせください!」

「うんうんいい返事だ。では君たちのユニット名を発表しよう!」


 ごくり、虹川さんが喉を鳴らす。

 俺もつられて唾を飲み込んだ。


「輝きを放ち続けるアイドル――Shiny Prism——だ!」

「シャイニープリズム!」


 虹川さんは目をキラキラ輝かせて、拳を前に出す。

 表情を変えない硝子堂さんは、ただ静かに胸元に手を添えた。

 リアは……社長のノリに合わせて軽い拍手を送っている。

 うーん、虹川さんはともかく、2人はどうも分かりにくい。

 硝子堂さんは目的重視で、リアは気分屋だ。

 この先なんにもなきゃいいけど……。

 社長もどうしてバラバラな3人をユニットにしたんだろうか。


「曲も振り付けも既に手配済みだ。プロデューサーくんは、彼女たちの宣伝とレッスン、営業に集中してくれたまえ。他に質問はあるかい?」

「——はい」


 細くも芯の通った声が響く。硝子堂さんだ。

 立ち上がり、社長を見つめる。


「テレビに出られるのは、早くて1年後と思った方がいいのでしょうか?」

「デビューライブは配信も行う。君たちが力を合わせてレッスンと営業に励めばより多くの人たちが観てくれるよ」

「配信……」


 手元に視線を落として呟く。

 彼女の眼差しは、ここじゃない誰かを思い浮かべているようにも見えた。


「社長!!」


 静かな空気を突き破るほど元気いっぱいな声……虹川さんだ。

 虹川さんが立ち上がった瞬間、椅子がガタンと跳ねた。

 この場にいる全員の視線を持っていく。


「わたし、絶対、ぜぇーったい! みんなに眩しい笑顔を分けられるアイドルになりますから! プロデューサー、玲奈ちゃん、リアちゃん、よろしくお願いします!!」

 

 頭頂部の毛先がぴょんと揺れ、社長と同じくらいの熱量を込めて笑顔を放つ。


「いいぞ虹川くん! その意気でさらに磨きをかけてくれ!」


 社長の目は少年のように輝いている。


「はは、みんなで頑張っていこうな」


 ちらっと他の2人を見やると、硝子堂さんは圧に怯んだのか、表情を硬くさせている。

 リアは「がんばってね」とでも言いたげに笑っていた。

 この空気のばらつき感が、俺の肌にビリビリと伝わってくる。

 とにかく、目標は来年のデビューライブ。

 彼女たちをそこまで導くんだ……なのに決意を揺るがす重い鉛が肩や足にまとわりつくのは、一体――。

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