第18章 神殿を揺るがす刃
夜明け前。
神殿の奥で焚火の赤い残り火が静かに揺れていた。
アレンは剣を膝に置き、うつらうつらと目を閉じていたが、微かな気配に瞳を開いた。
――馬の蹄の音。
それも複数。
「……来たか」
アレンは立ち上がり、仲間を揺り起こす。
リディアは即座に杖を握り、ミラは剣を抜き、息を呑んだ。
◆
神殿の入口に、重い足音が響く。
やがて月明かりを背に、甲冑の部隊が姿を現した。
その先頭に立つのは――レオン。
「……アレン」
「レオン……」
互いの名を呼び合った瞬間、周囲の兵が一斉に剣を構える。
「勇者を捕らえよ!」
号令とともに、戦いが始まった。
◆
狭い神殿の回廊に、剣戟の音が響き渡る。
アレンは剣を振るい、兵士たちをいなしていく。
ミラは背後を守りながら必死に叫んだ。
「アレン、無茶しないで!」
「大丈夫だ……ここで倒れるわけにはいかない!」
リディアは詠唱を終え、炎の奔流を走らせた。
「〈紅蓮の鎖〉!」
炎が兵士たちの進路を遮り、彼らを退ける。
◆
その混乱の中、アレンとレオンの視線が再び交わった。
二人はほとんど同時に動いた。
「アレン!」
「レオン!」
刃と刃が激突し、金属音が神殿に轟く。
かつて共に汗を流した訓練場の記憶が蘇る――だが今は敵同士。
「なぜ抗う! お前が戻れば、王国は救われる!」
「違う! 王国は勇者を利用するだけだ! 俺は俺の意思で選ぶ!」
火花が散り、互いの顔が間近に迫る。
◆
レオンの剣筋は鋭く、迷いのない一撃に見えた。
だがアレンの目には、その瞳の奥に揺らぎが見えた。
「……レオン、本当にそれがお前の望みか?」
一瞬、レオンの動きが止まる。
その隙をアレンは突けた。だが、振り下ろした剣を寸前で止めた。
「……っ!」
レオンの表情が苦悶に歪む。
「俺は……命じられたから斬るのか……それとも……」
兵たちの叫びが響く。
「レオン様! どうされますか!」
その声に、レオンは握る剣を見つめた。
額を汗が伝い、心臓の鼓動が痛いほど響く。
◆
その瞬間――神殿全体が揺れた。
壁に刻まれた古代文字が光を放ち、地響きが起こる。
「な、何だ!?」
兵士たちが混乱する中、リディアが叫んだ。
「神殿が反応している! 勇者と導き手の選択に!」
天井から石片が崩れ落ちる。
混乱の只中で、レオンの剣先が震え、わずかに下がった。
「……アレン……俺は……」
その言葉は最後まで続かなかった。
轟音とともに、神殿の奥からまばゆい光が迸ったのだ。
◆
アレンは目を細めながら剣を握り直す。
(選択を迫られているのは、俺だけじゃない。レオンもまた……)
崩れ落ちる神殿の中、勇者と騎士の運命は、再び交錯しようとしていた。
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