第17章 古代神殿の囁き
森を抜け、山道を進んだ先に、それはあった。
朽ちかけた石の柱が並び、蔦に覆われた遺跡のような神殿。
その入口には、淡い光を放つ紋様が浮かび上がっている。
「……ここだ」
リディアの声はわずかに震えていた。
アレンは剣を握り直し、静かに息を吸った。
ここで待つものが、自分たちを導くか、それとも試すか――まだ分からない。
◆
神殿の中は薄暗く、冷たい空気が流れていた。
石の壁に刻まれた古代文字が、青白い光を帯びて浮かび上がる。
まるで来訪者を待ちわびていたかのように。
「読める?」
アレンが問うと、リディアは慎重に文をなぞった。
「……“勇者は選ばれし者にあらず。勇者は、選び取った者を勇者と呼ぶ”」
その一文に、場の空気が凍りついた。
「選び取った……?」
ミラが小さく繰り返す。
リディアは静かに頷いた。
「つまり勇者は、神に定められた存在じゃない。己の意思で世界に抗い、未来を掴んだ者が“勇者”と呼ばれるのよ」
アレンの胸が熱くなる。
幻とされた転生の記憶――それは縛りではなく、選択のために与えられた試練だったのか。
◆
そのとき、神殿の奥から低い声が響いた。
「選ぶ者よ……汝はどちらに与する」
空気が震え、床に刻まれた紋様が光を放つ。
アレンたちの前に、影のような幻影が現れた。
それは人とも神ともつかぬ存在。
「神の理に従い、秩序を守るか――
あるいは理を壊し、新たな道を拓くか」
声は重く、胸の奥に直接響くようだった。
「選ばなければならないのか……?」
アレンは呟いた。
「いずれにせよ、その時は近い」
幻影はそう言い残し、光とともに消え去った。
沈黙が落ちる。
ミラは震える手でアレンの袖を掴んだ。
「アレン……怖いよ。でも……あなたが選んだ道なら、私は一緒に歩く」
その言葉に、アレンは力強く頷いた。
◆
一方その頃――。
王都を発ったレオンは、騎馬の部隊を率いて山道を進んでいた。
その表情は固く、心の奥底には深い葛藤が渦巻いている。
(アレン……お前の言葉が胸に残っている。だが、俺は……)
背後から近づいた宮廷魔導師が、にやりと笑った。
「この先に古代の神殿がございます。勇者は必ずそこを目指すはず。
――討つのか、救うのか。それを決めるのは、あなた次第です」
レオンは答えなかった。
ただ、強く馬の手綱を握り、前を見据えた。
◆
夜風が神殿の外壁を撫でる。
アレンは仲間とともに焚火を囲み、幻影の言葉を反芻していた。
(選ばなければならない……世界を、未来を)
その炎が、彼の瞳に映り込み、決意の色を帯びて揺れていた。
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