第5話 食い違い勃発

 講義中にいつも居る幼馴染は本日不在、少し前を見ると女友達と和やかに喋っていた。手元を見ると俺のスマホを我が物顔で握っていた。


「(これはまずいな)」


 パスワードを設定しているが前に「これ応募したいからパスワード教えて」と言われて自然に教えてしまった。結果的に俺も欲しかった現在高騰している限定フィギュアを拝見できているのだが、


「あれ? 琴奈スマホ変えた?」

「そうなんだよね。少し男っぽいかな」

「似合ってるよ」


 少し前から聞こえる声に耳を澄ませば幼馴染がやばい事を放っている。もしかして結構怒ってますかね。嫌々、誤解を解いただけだし間違った事は言っていない。俺達は幼馴染の前に親友だから、


「それじゃあ連絡先とか入れる?」

「それは駄目!」

「これはサブ端末。メインの連絡先は持ってるでしょ」

「あーね」


 断っていたが心の中で「どれがサブ端末じゃい」と叫びたかったが今は辞めておこう。相談できる友人は仮病で休んでいるので、今は沈黙を貫こう。帰る時に返してもらったらそれでいい。


「それで講義を終わります。あ、由美君」


 女好きな教授は講義が終わると彼女に素早く連絡を入れる。その為長引く事がないのは助かっている。少し前に居る琴奈を見ると、


「(マンションにGO!)」


 スマホ奪還計画が僕の使命だと悟った。


「琴奈さん、スマホ返して」


 優しさ、怒り、奪い、泣き、全て空振りしたので真っ向勝負に賭けた。琴奈は依然としてスマホを握りしめていたが、


「......良吾は私の事どう思う?」

「幼馴染」

「そっか、例えばもし私に彼氏ができたら?」

「家事を託す」

「そっか、ならスマホ潰すね」


 そう言って俺のスマホを地面に叩きつける動作をしたので、焦って琴奈に静止する形で抱きついてしまった。


「良吾!?」

「度が過ぎてる。スマホ返せ」

「......ごめん」


 だがスマホを返さない幼馴染、衝動は収まったと感じた俺は少し距離をとって説得に方向転換した。


「琴奈が不機嫌な理由が俺にある事は多分理解できる。だが、それを物に当たるのは人して最低だよ」

「う......うわぁん、良吾が怒った。僕は知って欲しかっただけなのに、なんでなんで」


 こっちが聞きたい。なんで泣いているんだ。こっちと俺のスマホが泣きたいよ。普段クールな人間が大泣きした時は結構言い方を間違っているが、ギャップが凄い。


「(優しくするはおかしいが)」


「琴奈、すまん。言い過ぎた」

「......」

「ちゃんと話し合えば良かったのに(衝動的になった琴奈さんと)」

「そうだね」

「さっきは悪かったよ(琴奈も)」

「だよね。良吾怖かった」

「すまん。それ(12万のスマホ)が一番大切だから」

「え!」


 スマホを指差したが琴奈はブルブル震えていた。そして何故かモジモジしながら赤面して近づいてきた。


「僕も同じだよ。ずっと大切なんだよ」

「そうなんだな(他人のスマホをそこまで)」

「だから今日ずっと辛かった」

「同感だ」

「良吾にも味わって欲しかったからやっちゃった。ごめん」

「そうだったのか(ん? 俺は琴奈のスマホを奪った記憶など無いぞ)」


 会話が噛み合っていないが、スマホを返してもらったので結果的に別に良い。琴奈も普段通りに戻ったので今日はスマホと熱い夜を迎えそうだ。


「あ、今日は友人が泊まりに来るから解散ね」

「あぁ、俺も突然用事ができた」

「なら、バイバイ」


 俺達は別れて自宅に帰った。数時間手放すだけでこれ程とは今日は普段より大切に使うからな。


 俺は久しぶりに電源をつけると琴奈がピースしている写真が目に写った。俺の壁紙は宇宙のはずだが何故ピース? まるで、


「恋人同士みたいだな」


 ふと考えた。俺達は幼馴染だが恋愛感情を持った事は多分ない。友情を壊してしまう可能性とかの心配ではなく、単純に兄弟に近い関係だったので意識すらなかった。


「でも変えるか」


 変えようと設定を開こうとして着信が来た。


「良吾、壁紙変えたら女友達に良吾に泣かされて突き放されたって広めるから」

「嫌々、嘘だろ」

「証拠もある」


 会話の後にさっきあった音声が流れた。若干重要な部分が切り取られているが、まるで俺が琴奈を突っ放している様に聞こえるのもおかしい話だが、


「くっ」

「それじゃあお願いね」


 壁紙に悩まなくなった弊害として毎回スマホを見るとピースしている幼馴染を見るのか。少し面倒だが平和を願う俺には手段など存在しなかった。


「帰って寝よ」


 疲れた体に再度鞭を打って帰還した。ベットに横たわると一瞬で夢の世界に入れた。スマホちゃん愛してるよ。顔はスマホ体は爆弾ボディ、夢では存在したらしい俺のスマホ愛の具現化が、



 マンションにルンルンで帰っている幼馴染さんは、


「僕もしてるのに良吾がしていないのは癪だから」


 僕のホーム画面には満面の笑みで映っている僕の愛しの幼馴染であり生きる支えの良吾が映っている。それだけで心が多少は軽くなる。


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