第29話 その後1

 美鈴達が、恭介が経営している喫茶店へと赴いて自爆してから数日経った。


 恭介たちは証拠も十分取れたこと、そしてこれ以上は結城の精神が崩壊してしまう事も加味してさっさと動いたようで、現在美鈴達は停学中である。


 まだ審判は完全に下っていないようで、聞くところによると美鈴は退学になり他は日数は分からないが停学になるらしい。だが、恐らくだが停学じゃなくほか三人も自主退学ということになりそうである。


 夢ははたまた恭介か、それともまた別の誰かがやったのかは分からないがネットにも拡散されたようで、美鈴たちは今後より肩身の狭い思いをしながら生きていくことになる。


 勿論、綾香も処罰対象でありネットでは美鈴よりも綾香の方が悪だという意見もあるような、無いような。


 それに加えて、どうやら美鈴の親だけでなく、結城を虐めに関わった美鈴のお友達の親までも今は大変らしい。


 恭介が言うには、常連さんの誰かが美鈴の親を本気で潰している最中のようだ。


 事が大きくなり、ネット記事に書かれるまでになったこの虐めだが被害者であり、当の本人の結城は別にそんなことを気にしてもいなかった。


 結城にとっては、綾香がどうなろうと、美鈴がどうなろうと、その他がどうなろうと知ったことではないのだ。もう他人であり、興味もない、どうでもいいような人間に時間をかけるのも無駄であると考えている。


 そんな心底どうでも良い事よりも、自分のために動いてくれた恭介や夢に何か返せることは無いだろうかとそのことだけを考えていた。


 夢が苦手であるとはいえ、この件で自分を庇ってくれた上に色々動いてくれていたことは何となくわかる。彼女の事を苦手だ、なんだと言ってお礼もせずに駄々をこねていたらそれこそ自分も綾香たちのような人間と同じである。


 恭介に至っては、今までずっと自分の事を守ってくれていたのだ。今こそ何か返すべきなんじゃないだろうかとそう思った。


 家の空気が嫌いだったため、気分転換に外へと出て、うんうんと頭を捻って考えてみるも、どうにも見つからない。


 何か盛大にお金をかけるのはどうだろうか、なんて考えたがそれで恭介たちは喜ばないだろう。


 悩み続けていると、目の前に小さな子供と親が手を繋いで歩いている所を見た。


 あぁ、そういえば。


 父さんは、僕が本当に小さい頃に書いた似顔絵付きの手紙を喜んで大切にしてくれていた。そのことをふと思い出した。


 以前、恭介が自分の事を息子だと言ってくれたことが重なったからだろうか。


 そうぼんやり考え、案を採用しようとするも冷静な自分が待ったをかけた。


 結城は恭介を父親と見立てて書いた手紙を、恭介が絶対に喜んでくれるという確証がなくて一気に不安になる。もし拒絶されたらとそう思うと踏み出すのには勇気がいる。


 が、以前は喜んでくれていたのだ。ここでこれ以上うじうじ悩んでいてもこれ以上良い案も思い浮かばない。


 結城は早速、便箋を買いに駅の方へと歩き出した。






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