第28話 夢のターン2
温かい空気の中、そっと抜け出した夢は先ほど外からこちらを眺めていた一人の女生徒の事を追いかける。
夢が外に出て、それに気付いたその子はアリサと同じように逃げてしまった。
まるで自分は関係ないかのように。
夢は別に焦って走ることは無く、歩きながらその子の事を追いかける。どうせ、追いつけるという確信が夢にはあった。
心の弱く中途半端な彼女の心を夢は完全に読めていた。
前と同じ小さな公園に着き、その女の子に追いついた。
「ねぇ、君。綾香っていう子なんでしょ?結城君の元彼女だった人だよね?」
夢がそう聞くも目のまえにいる綾香は口を開かずに俯いていた。未だ現実を見ようとはしていない。
夢は、綾香に直接会ったことは無いがずっと意識している存在だった。
それも当然の事で、夢は結城の事を愛しているから。夢としては、綾香が羨ましくて、そして憎くて仕方がなかった。
綾香が嘘告白をして結城と付き合ったと知った時から、その憎しみは膨らみ、結城が綾香が原因で虐められていると知った時は、その憎しみは爆発したと言っても良い。
だが、少しだけ今は綾香に感謝していた。綾香が結城を手放してくれなければ一生結城は不幸なままであったし、結城と結ばれる可能性もなかったであろうから。
「綾香ちゃんさ、最後の最後まで逃げるつもり?」
「そ、そんなことは」
夢がそういうとやっと綾香は口を開いた。
「逃げるつもりだよね。向き合いもしないで、逃げ続けてるよね。あのお馬鹿さんたちとは私は関係ありませんなんて思ってない?」
「...」
「勝手にあの子たちがやったから私は悪くありません、なんて馬鹿げた言い訳考えてない?」
夢はゆっくり近づくと、綾香の胸倉を掴んだ。
「いい加減、甘えたことするのやめてくれないかな。今ね、私は綾香ちゃんの事を殺したいほどイライラしてるんだよ?」
じぃっと目線を綾香と合わせる。
「知らない、私は関係ない。ほかの人のせい、自分は悪くない。何時までそうしているつもりなのかな?綾香ちゃんには自我もないの?君はね、あのお馬鹿な子以下の存在だよ」
夢のドス黒く殺気に染まった眼を見れなくなった綾香は目を逸らす。
感謝しているとは言ったが、大本にあるのは綾香を殺したい程の憎悪であった。
「わ、私は...」
「何?」
「私も、あの子たちを止めようとは思ったんです。でも...」
「自己保身に走ったんでしょ?自分の身を守るために。結城を捨てて」
「それは...」
言い返せる言葉なんて綾香にはなかった。
グッサリと綾香の胸に刺さった夢の言葉は抜けない。
また黙ってしまった綾香に夢はもうげんなりしてしまい、彼女の胸倉から手を放した。
「なんか、もういいや。君はもう一生そのままなんだろうね。別に更生の機会をあげようなんて端から考えて無かったし、言いたい事は言えたからいっか」
夢は綾香に背を向けて、結城達がいる方へと歩き出す。
「あ、まだ言ってなかったことあった」
夢はくるりと振り返り、俯いている綾香へこういった。
「絶対許さないから。後悔させてあげる」
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