第26話 肥大化した自尊心
この話は見なくてもいいし、見ても良いです。
かにくい
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美鈴という人間は、生まれてから現在までずっと誰かに怒られるなんてことは無く甘やかされて、蝶よ、花よと愛でられて育てられてきた。
父親が大手会社の重要役職についていて、母も会社ではそれなりの立場で。
そこら辺の家庭よりも裕福で、何不自由のない暮らし。
そんな美鈴はお人形さんみたいと親、親戚等に言われ、その他大勢に言われ、自分という存在は貴重なものだと幼少期には知ってしまった。
肥大化した自尊心は成功を生むことも多々あるが、美鈴という人間に限ってはそうではない。
ただ美鈴は自尊心の強い、自我が強すぎると言い換えてもよい彼女は他者を傷つけることを厭わない。
気に入らなければ、一切の躊躇いも傷つける。彼女の事を馬鹿にしたりだとか、陥れようとすれば言わずもがなである。
彼女に人望があれば幾らか違っただろうが、人望なんてものは無い。薄っぺらい周りとの関係。顔がよく、性格が嗜虐的な彼女の周りには媚びへつらい機嫌を伺うような人間しかいない。
だからこそ、結城が彼女に反抗したことは、彼女にとって許しがたい侮辱だった。
「お前らの趣味の悪い遊びのせいで被害を被ったのは僕の方なんですけれど。お友達ごっこがしたいのなら僕を巻き込まずにしてくれませんか。不愉快で仕方ないんですけれど」
お友達ごっこ。
この言葉が美鈴の頭にずっと残っていた。
何がこれほど自分をイライラさせているのかも美鈴は、美鈴のままだったらずっと分からないだろう。
図星を突かれているのだ。
心の奥底で自分が何となく一人であるということを理解しているということを直視できなければずっと、理解できない。
だけれど、肥大化した自尊心はそれを許してはくれない。ひどい矛盾が発生している。
もしこの結城が幼い頃から、美鈴という人間に関わっていればもしかしたら彼女がましな方向へと傾く可能性もあったが、それはもしもの話でもう、彼女はここまで成長してしまっていた。
結城が働いている喫茶店まで歩いている間、彼女は結城の事を考えてはイライラが止まらなくなっては、悪態をついて周りもそれに便乗して心を落ち着かせていた。
どう結城を反省させて、どう惨めにするのかということが頭の中を占めていた。
最初にあった、綾香のためを思ってという事もいつしか自分の為になっていた。
綾香の為というのが建前ということにも彼女はこれから先、気づくことは無いだろう。
そんな人生で失敗のない、何不自由のない、親の権力を自分のものだと勘違いし、自分の思い通りに進めてきた美鈴はしてはいけない線引きを超えたらどうなるのかも今は知らない。
今は。
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