第22話 夢のターン
「ごめんね、ちょっと私、あの子とまだ話したいことあるから追いかけるね。結城君はお父さんと話しながらゆっくり待っていてくれればいいから」
結城君が私の事を見て、少しだけ怪訝そうな顔をする。
「大丈夫、悪いようにはしないから。ただ少しだけ話し合いするだけ。あの子は言うだけ言ってそのまま逃げちゃったから」
結城君は未だに難しそうな顔をしているが、あの子が遠くに行っちゃう前に行かなきゃいけないからそのままバックヤードの扉を開けて出る。
「夢、あんまり言いすぎないようにな」
お父さんが私が何をしようとしているのかに気付いてそう言われてしまう。
「大丈夫だよ」
お店を出て、右左を見るももうあの子の姿はない。
恐らくだけれど、来た道を戻っていくはずだから学校方面へと行けば会えるはずだとそう思って、足を進めると人のいない小さな公園で一人俯いていた。
「ねぇ、アリサちゃん。だっけ?」
私が声を掛けると、ビクッとしてそのまま固まってしまう。
その様子に私はクスリと笑って、隣に座った。
「結城君に散々言われちゃって辛いよね」
私は語り掛けるように彼女に対してそういう。
反応はないが、聞こえているはずなので言葉を続けた。
「でもさ、結城君に謝って、罵倒されて、何処かスッキリした感じがあって、私の恋は終わったんだー、なんていい物語風に思ってる節はない?」
先ほどは反応なんて無かったのに、ビクッとして若干震える彼女を見て、若干の怒りを覚えたが、抑えつつ話を進める。
「私さ、小学校の頃に初めて結城君と出会ったんだ。お父さんが、泣いている結城君の事を連れて来てね」
あの時の結城君は、今のように壊れてはいなかったがその兆候はあった。
恐らくだけれど、アリサちゃんの件で大きな罅は入っただろうけれどそれよりも前に小さくはひびが入っていたんだと思う。
アリサちゃんの件や、中学校での出来事、そして高校で起こったこと。
お父さんがその度に何とか修復してきたけれど、持たなくて高校の一件でついに壊れちゃった。
だから、この大きな罅を入れたこの子を私は許しちゃいけない。
「あの時の結城君は今のアリサちゃん以上に可哀そうだったよ?いっぱい泣いてたし、辛そうにしてた」
結城君からすればこのアリサちゃんはきっと、クラスの中で唯一信じてくれるだろうと思って縋った人なのに、結果は酷い拒絶と裏切り。
私が結城君と同じ学年でこの子と同じ立場だったらと思うと更にモヤモヤとしたものが腹の底に溜まっていくのを感じる。
「それなのにアリサちゃんはそうやってうじうじ泣いて悲劇のヒロイン気取ってるんだ。話を聞いていたけれど、結局結城君の事何一つ考えてないよね?」
アリサちゃんは私の言葉に何を思ったのか、ジッと睨むようにしてこちらを見た。
がそれで怯む私ではない。
「結城君が何でもないように接してくれたから、だから私もそうしたって言い訳作ってない?アリサちゃんがやったことは変わらないのに。それに今日の一連の事だって、前のように仲良くしたいってそれはアリサちゃんの事情であって結城君を考慮してないよね?」
私が引っ掛かっていたのはそこだ。
この子は自分の事しか考えていないのだ。
結城君はまずアリサちゃんと元の関係に戻りたいなんて思ってもいないだろう。
都合の良い方に流されて、好き勝手した挙句、それに突っ込まれたら泣いて喚いてヒロインを気取る。
アリサちゃんは結局、昔のまま成長して今もそのまま。
周りの友達に言われて結城君を糾弾して、事実を知って謝ろうと思ったけれど結城君が優しいからまた流されて。
それに加えて、男の子と、先生のせいにしている部分もあるだろう。
自分の信用を自分の不出来で壊して、泣いて。
酷いマッチポンプ。
「でも、まぁアリサちゃんは今回は逃げずに過去を清算しようとした点は褒められなくもないけれど、全部、全部遅すぎるよね?」
そもそも過去を清算しようとするなら、例の男の子とか先生をどうにかしろと思うけれどそれこそ今更だし。
「アリサちゃんが今できる、最大の事って何だと思う?」
私の言葉を聞きたくないのか、また俯いているアリサちゃんに問いかける。
「ねぇ?なんだと思う?」
アリサちゃんが言葉を発するまで私は待つ。
「...今、大変な目にあってる結城を救ってちょっとでも結城の力になること」
それっぽいことを言って、罪を軽くしようとしているこのお馬鹿ちゃんに言ってあげなきゃ。
「違うよー。もう結城君と関わらないこと、だよ。アリサちゃんが結城君と関われば結城君は苦しいだけだよ。辛い思いをするの。だから、あなたはもういらないの」
アリサちゃんはこの罪と一生向き合っていかなければいけない。
軽くしようとしたり誤魔化したりするのを私は許さない。何より逃げようとするのはもっとダメ。
一人でずっと苦しんで、一人で考えて、意思を持たなければいけない。
アリサちゃんは、苦しそうな、それで私に怒りや憎しみを吐こうと、何か言いたそうにするも言葉が出ない。
アリサちゃんが立ち上がって、またどこかに行こうとする。
「あ、待って。アリサちゃんが結城君にできる事まだあったかも。あの動画、私にちょうだい」
私の言葉に足を止めたアリサちゃん。
「アリサちゃんが結城君にできる最後の事だよ、早く頂戴。それともまだ、結城君の事を苦しめるつもりなのかな?」
私はアリサちゃんが手に持ってるスマホを見る。
その動画はアリサちゃんが持ってても意味ないもん。
アリサちゃんはゆっくりとスマホのホーム画面を開いて、動画を選ぶ。
後は、スマホの共有機能を使って私のスマホに動画を送ればそれで終わり。
それを押したら、アリサちゃんの役割は、関わる意義がなくなる。
私は手が震えていたので、その手を取ってそっと押してあげた。
確かに私のスマホに届いたことを確認してから今度は私がアリサちゃんに背を向けた。
「じゃあね、アリサちゃん。二度と会わないといいね」
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