第21話 老舗の味

 すべてを話し終えたアリサは、結城の目を見た。


 相変わらず結城は死んだままで、結城の隣にいる夢もこいつは何を話しているんだという目でアリサの事を見た。


「結城。あの時、私は結城の事を信じ切れずに結城の事を裏切っちゃった」


 今までアリサが話そうとして、あやふやなままで来てしまったことを吐露する。


「ごめんなさい、あの時結城を信じられなくて」

 

 今まで言えていなかった謝罪の言葉をようやくアリサは、口に出すことができた。


「今度こそ私は間違えないから。、この言葉を守るから」


 この瞬間、アリサは今まで言えなかったことと最近の結城の態度で苦しさが積み重なった思いがスッと軽くなった気がした。


「それとね、今結城の虐めている子達が、結城の教科書とか靴とか汚している所も動画で撮ってるの」


 結城は何もまだ言ってないのにも拘らず、アリサは次の事に話を進めようとする。


 が、


「それだけ?」


 今まで一度も口を開かなかった結城がやっと口を開いてこういったのだ。


「それだけのためにわざわざマスターや夢さん、僕の時間を奪ったのか?」


 結城は抑揚のない声で、全く感情が籠っていない瞳でアリサの目を射抜く。


 謝って、今、結城を虐めている結城の事を助け出して、許してもらってそして、あの小学校時代の仲良かった頃に戻れればなんて勝手に思っていたアリサは、体が固まって、表情が凍る。


「今更、お前は何を言ってるんだ?」


 続けて結城は、口を開く。


「何もかも遅すぎるんだよ、お前は。今更謝られたところで意味がないんだ。お前の自己満足でしかないんだよ。僕は、あの辛かったときに、お前に信じてほしかった。助けてほしかった」


 そこで、区切って結城はじっとアリサの事を見つめた。


「けど、お前は一緒になって僕の事を罵倒した。誓ってそんなことをしていないと言った僕を切り捨てて、周りの言う事ばかり信じて、一番身近で一緒に遊んでいた僕を裏切ったんだよ」


 冷たい口調でアリサに言葉を吐き捨てる。


「ずっと一緒にいよう?妄想も大概にしてほしいし、僕はお前とずっと一緒なんて絶対にごめんだね。その言葉を二度と、僕の前で使うな。聞きたくないんだ、そんな言葉」


 結城にとって、これは呪いと言っても良かった。


 この言葉を守れる女の子なんて今までで一人もいなかった。


 だから、結城にとってこの言葉は何よりも重くて辛い言葉であった。


 アリサは結城の言葉に耐えきれず、涙が浮かびいつしか俯いていた。


 結城はその様子を気にかけることも無く席を立った。


「もういいかな。マスター一人にこれ以上負担させられないし、バイトしたいんだけれど」


 その言葉にアリサは逃げるようにして、店を出て行った。




 









 

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