第16話 もう遅すぎる

 今日もバイトがあるため喫茶店へと歩く。


 綾香が昼休みの間、結城に謝罪をしていたが、結局結城は一度も綾香と目も合わせることなく、綾香がずっと「ごめんなさい」と謝罪をするだけという奇妙な空間であった。


 綾香が何をしたところで結城にとっては、もう他人であり、関わりたくもない相手であり、自分に害を齎す存在であるのだ。


 綾香と顔を合わせたくも視界にも入れたくない為、学校へと行くのが面倒に感じ始めた結城だったが、それはそれで色々と問題が生じるため断念せざる終えない。


「ゆ、結城」


 最近悩んでばかりの結城だが、また面倒な悩み事が増える予感がして後ろを振り向きたくはない。


 それに加えて、この声は結城が嫌いな人間の声だったから。


 無視してそのまま足を進める結城だったが、後ろから走ってきて結城の前へとその姿を現す。


「結城」


 それは、日向アリサだった。


 結城の中で嫌いな人間の最上位にいる人間と言っても過言ではない人間である。


「ごめんね、急に呼び止めて」


 呼び止めてはいないだろうと、そう思った結城だったが別に相手をする必要はないため目の前にいるアリサの横を通ろうとするも、アリサがそれを邪魔した。


「結城、聞いて欲しいことがあるの。結城にとっても私にとっても大事な事だろうし。ちゃんと今までの事と、これからの事を話したくて」


 何を言っているんだ、と頭の中に疑問符が浮かぶ。


 アリサとの未来?今までの事?これからの事?


 結城にとって何を言われているのか本当に分からない。


 つい最近、アリサとの関係はあれで完全に切ったと思っていたから。


「最近、結城は綾香っていう子と別れたんだよね」


 アリサが結城に綾香とのことを聞くがこいつには関係ないと思っている結城はうんともすんとも言わなかった。


 だが、アリサは話し続けた。


「綾香が嘘告白して、結城の事を騙したっていうのも知ってる」


 アリサがどこからそんなことを知ったのだろうと一瞬考えた結城だったが、教室でお友達さんと会話をしたことで、他クラスにもその話が出回ったのだろうとそう考えた。


「それで、何故かは分からないけれど綾香の友達が結城の事を虐めているって話も知ってるんだ。このせいで結城が、今のような感じになっちゃったんだろなってそう思ってる」


 アリサがまだ、話し続ける。


 結城はまだ、一言も話さない。


「勿論、私が過去に結城にしちゃったこともあると思う。私だけじゃない。いろんな人が結城の事を傷つけて、逃げた。結城は逃げた私たちでさえ許してくれた。だから、もう逃げないことにしたの。ちゃんと話さないとって思って」


 アリサの真剣な目に対し、結城は死んだ目をしていた。


 

 

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