第17話 自己中心的

 アリサの言っていることを結城はやはり理解できない。


 もう逃げないようにした?


 今更何を言っているんだろうか。


「何してるの?結城君」


 これまた後ろから声を掛けられた。


 次に声を掛けてきたのは、結城が嫌いではない人なのでそちらへと視線を向けると、そこにいたのは夢だった。


 結城のバイト先であり、夢のバイト先でもある喫茶店の近くでもあるため夢がいるのは別に不思議でも何でもない。


「別に面倒な輩に絡まれていただけです」

「輩って、この女の子?」


 夢は視線を結城からアリサへと持って行った。


 夢はどこかでアリサの事を見たことがある気もするが、思い出せない。


「結城君。この女の子って誰?」

「...僕が小学生の時の」


 夢はその先を聞かずとも理解し、何処かで会ったような気がしたのは間違いではなかった。


 成程、だから結城が面倒な輩と言ったわけだと納得して、またアリサに視線を戻した。


「それで、結城君に何の用なのかな?」


 夢がそういうも、アリサは夢へと視線を向けずに結城の事をじっと見ていた。


「結城。さっきの話の続きをしたいんだけれど」


 一体、何の話をしようとしていたのだろうかとそう思った夢だったが、結城の死んだような眼を見て何となく状況を察した。


 結城とアリサ。


 この二人だけでこのまま話を続けようとところで状況がよくなるわけがないし、何を結城に吹き込もうとしているのかも分からないアリサの事をこのまま野放しにしておけば、最悪な結果になるに違いない。


 結城の精神状況は、現在起きている虐めと今までの事で最悪な状態に近い。


 それにアリサがとどめを刺せば、取り返しのつかないことになると判断した夢は、こう提案した。


「分かった、じゃあこの話はこんなところでしないで私たちがバイトしているカフェで話そう。お父さんには私から話しておくから、ね?」


 アリサにそう提案するも、未だに結城へと視線を向けていて夢の言葉に耳を傾ける気はないようだ。


 結城の方へと夢は視線をずらすと、複雑そうな顔を浮かべる。


 夢はそんなアリサの態度に溜息を吐いて、結城の方へと近づいて、アリサには聞こえないよう話をする。


「結城君。もしここであの子を振り切っても、また後で話をしようと近づいてくるだろうし、このままここにいても進まないよ?きっと、結城君もそれは分かっているだろうけれど、お父さんに迷惑かけるのが嫌なんだよね?」

「はい、そうですね」


 結城が頷いたので、夢はそのまま話を続ける。


「私からお父さんに話はしておくし、お父さんも絶対に結城君の見方だから迷惑とは思ってないよ。それに、あの子と結城君が二人だけで話す方がお父さんは心配するし迷惑がかかると思う」

「...はい」


 結城もそれは分かっているが、どうしても引っかかってしまう。


「私が、結城君とあの子の話し合いを第三者として入るし、出来る限りお父さんに迷惑を掛けないようにするから。だから、ここはそれで納得してくれないかな?」


 夢のお願いに、結城は考えた末に頷いた。


 夢もそれに頷いて、アリサへと顔を向ける。


「そこの君。まず、結城君とあなたの話し合いは私が入らないとしちゃいけない。それと、話し合いは私たちのバイト先で行う。それでいい?結城君はそれで頷いてくれたけれど」


 アリサは一瞬、嫌な顔をしたが、


「結城がそれでいいなら」


 こうして夢立会いの下、話し合いをすることになった。

 

 


 

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