第13話 家族とは
またか。
結城は帰り道にそんなことを思いながらバイト先である喫茶店「春風」に向かっていた。
結城にとって虐めという行為は今までの人生で無関係ではいられなかった。
小学校で虐められていた結城にとっては、何かちょっとしたことでも起こりえると認識している行為であった。
だから、またかと思ったのだ。
虐められたことのある結城は分かっていた。
こういう時は、先生、親に頼ろうとしても良い結果になることなんてないと。
親族は全くと言っていいほど結城を信用してくれなかった。先生は、結城が悪いと決めつけて謝らせようとしてきた。誰も結城の事を庇ってくれる人は身近にいなかった。
だが、今の結城にとっては虐めは別にそこまで大きなことでもなかった。されたことがあるし、今は小さかった頃のあの無力な自分でもないと思っていたからである。
だが、面倒である事には変わらない。
どうしようかと考えているといつの間にか、目的地に着いたので中へと入る。
「こんにちわ、マスター」
「結城君こんにちわ。今日も空いているから別に急がず準備していいからね。来ても数人だろうから」
「ありがとうございます」
更衣室にそのまま入って、店の服に着替えてからホールへと出る。
結城がこのバイトですることといえばそこまで多くはない。
コーヒーや料理に関しては恭介が殆どする為、それをお客様の所へと持っていくことや店内清掃くらいで飲食店で働いている人とほとんど変わらないし、もしかしたらそれよりもはるかに楽である。
店内は来た時と同じようにまだ誰も来ていない。
だが、今日は常連さんがこの後に何人か来るのはいつもの事なのでそれまで清掃をしつつ、これから先の事について考える。
「結城君、また何か悩んでないかい?」
恭介にそう言われて少しびっくりしつつ、顔に出ていたのだろうかとそう思った。
だが、恭介が結城の小さな変化に気付くのは昔からだったので、この人に隠し事は出来ないのだろうと改めて思う。
本当のことを言うかどうか迷ったものの、恭介に隠し事をしたところでバレてしまうのは分かっていたので素直に言うことにした。
「実は...」
「ただいまー、お父さん。結城君もお疲れ様」
これまたタイミングよく夢が帰ってきた。
以前もこんなことがあったなと思いつつ、話すのを止めようかとも思ったが夢はそのまま更衣室へと入っていったので続けることにした。
「実は、学校で少し面倒くさいことが起こりまして」
「面倒くさいこと?」
「はい」
事の事情を恭介に説明すると、顔を顰めて恭介には珍しく少しイライラした様子で結城へと近づいた。
そして、以前と同じように結城の肩を手で掴んで顔をじっと見る。
「結城君、俺は何があっても君の見方だから」
「ありがとうございます」
結城にとって、恭介の言葉は何よりも心強いものだった。
結城と関わってきたクラスの女も、教師も自分の家族でさえも信じないで裏切られてきた結城だが、恭介だけはずっと本当に変わらず結城の事を信じ続けていた。
だから恭介の言葉だけは信じられる。
別に虐めがそこまで結城の中で大きなものではない。だが、恭介がこうして言葉にして味方をしてくれるというのは結城にとって最後の希望のようなものだった。
「もしこの先、虐めがより酷くなっていくなら俺が何とかして見せるから絶対に俺に話して欲しい。それに、今日の事も一応学校に俺が話しておくから。一人で悩むことはしないで」
真剣な恭介に、結城は心を動かされる。
恭介が死んでしまった父親と重なって見え、思わず声が漏れた。
「父さん」
思わずでた声に結城は何を言っているんだとなって訂正しようとして、恭介が嬉しそうにしていることに気付く。
「あぁ、結城君は俺の大事な息子だ」
恭介は泣きそうな顔になり、それを見せまいと結城から離れて顔を逸らす。
格好いい父親で居たいという恭介の意地が見れる。
そんな恭介に結城も胸がじんわりと温かくなっていくのを感じた。
*********
更衣室から外の様子を耳を澄ませながら聞いていた夢は一人、呟く。
「私も味方だから。今はそれでいいよ。でもいつかは私も、絶対に」
悔しさを滲ませながらでも、確かにそう誓った。
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