第12話 下品な笑い
「おはよー、ちゃんと来てくれるなんて思っていなかったよ。何となく来ないんだろうなーって思ってた」
結城は、本当に致し方なく昨日の夢との約束を守ることにしていた。
あくまで結城としては夢との約束が大事なのではなく、もし本当に夢がお弁当を作って待っていたのだとしたら食材があまりにも無駄になってしまうし、恭介にも悪い印象を与えかねないと考えたから来ただけである。
ちなみに、未だ夢に対して何か言い返せる言葉が思いついたわけでもない。
「おはようございます。一応、来ました」
「ありがとうね。昨日は無理やり言いくるめただけなのに来てくれて」
夢は、結城が来てくれたことが嬉しいのか笑っている。
その手には約束していたお弁当を持っていた。
「はい、これ。何か嫌いなものがあるかもしれないけれど、その時は残しても大丈夫だから」
夢がお弁当を結城に差し出す。
結城は一瞬ためらった後に、そのお弁当を受け取った。
「ありがとうございます」
「いえいえ。私が勝手にやったことだから。昨日も言ったけれど、私が作りたくて作っているだけだから、お礼するのは私の方だよ。ありがとうね」
「いえ。作ってもらったのでそれは違うと思います」
「違わないよ」
そんなやり取りをしつつ、結城と夢は歩き出す。
「昨日は無理やり返事も聞かずに、約束取り付けてごめんね」
「それはそうですね」
夢は結城の返しに苦笑して、更に話を進める。
「お弁当も受け取ってくれたことだし、結城君に話したいことがあります」
「何でしょうか」
何か嫌な予感がするが、聞かないことには始まらない為仕方なく聞くことにした。
「私とお父さんの家に一緒に住まない?」
夢はお弁当の事よりも更に、踏み込んだ提案をした。
「無理です」
「無理じゃないよ。お父さんも良いって言ってくれると思うよ」
「良いって言ってくれたとしても、流石にできません」
理由としては明確にあった。
恭介に迷惑をかけすぎるからだ。
ただでさえ、今まで自分の事を心配してくれてその度に助けてくれた恭介にこれ以上の迷惑をかけることはできない。
結城の中で恭介という存在が大きいから。
「言いずらいけれど、結城君ってお家にあまり痛くないでしょ?」
「そうですが、それでもマスターにこれ以上迷惑をかけるくらいなら我慢した方がましです」
結城が毅然とした態度でそういうので、夢は昨日とは違いあっさりとここで折れた。
「分かった。最初から受け入れてくれるとはあんまり思っていなかったし結城君の考えを尊重します。でも、もし本当に困ったら私じゃなくても良いから、頼ってね」
結城は返しに困ってしまって、どう言おうか迷ったがとりあえず
「はい、わかりました」
とだけ返した。
頼ることはほとんどないだろうがもしかしたらあるかもしれないとそう思ったからである。
「それじゃあ、お弁当も渡せたし言いたいことも言えたから私は家に帰ってもう一度寝ようかな」
夢は結城から離れる。
「それじゃあまた明日」
結城へと手を振って別れを告げる。
「また明日」
そう結城が言うと、夢はニッコリと笑ってそのまま家の方へと歩いて行った。
結城も学校方面へと体を向けて歩こうと思ったが、一つ思い出したことがあった。
毎日お弁当を作らせるのは流石に負担だろうから、週に二日程度にしないかという事を言おうとしていたのだ。
だが、夢の提案に気を取られてすっかりそのことを忘れてしまっていた。
後ろを振り返って見ても、もう夢はおらずため息が出た。
「何しているんだ、僕は」
反省をしながら学校へと歩き、昨日と同じように教室へと行く。
結城が教室へとドアを開けて入ると、一瞬で空気が冷たい物へと変わるが気にすることもなくそのまま席へと座った。
ふと、膝が濡れていることに気付く。
机の中から水が垂れていた。
みて見ると、教科書類がべちゃべちゃに濡れていた。
何処かからクスクスと笑い声が聞こえる。
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