第11話 被害者はお前か?

 グッサリと刺さった棘が抜けない。


 心が痛い。心臓が痛くて仕方がなかった。


 昨日のあの場面を思い出すだけで、私の心臓の鼓動が早くなり呼吸が浅くなっていく。


 私の過ち。

 

 他の人にするのならば、まだ良かったかもしれないことだけれど、結城に対してだけは絶対にしてはいけなかった過ち。


「罰ゲームなんかで告白してくるような奴をどうして誘わなきゃならないんだ?自分の時間を無駄にして」


 いつ知られたのだろう。


 もしかしてずっと知っていたのだろうか、それとも最近知ったのだろうか。


 付き合って、本当に結城の事を好きになってから私は、罰ゲームで告白なんてことをするんじゃなかったと後悔ばかりしていた。


「僕がお前に過去を語って、お前の事を信じようとするところなんて、お前からすればきっといい見世物だったんだろうな」


 結城と付き合っていくに連れ、結城が私に心を開いて過去を話してくれた時、私はどんな顔をしていたのだろう。


 笑っていた、なんてことは無かった。


 ただ、不安だったしあれほど私の事を信じようとしてくれたのに、最初の時点で私は彼の事を裏切っていた。


 私のこの最低な行為が結城に知られたらどうしようかと、そう思って気が気じゃなかったのだ。


 過去を聞いて、余計に私が言い出せなくなってしまった。怖くなってしまった、逃げて幸せなお付き合いで誤魔化していた。なんにも見たくなかったから、不安を隠して蓋をして必死にバレないようにしていた。

 

 結城が私に過去を言わなければ、なんて他責染みたことを考えてしまうも、結城は私がまさか嘘告白だなんて思いもしなかっただろうし、結城の言う通り、この関係はいつか破綻していたものだったのだろう。


 だけれど、でも私は結城を好きになった。


 なってしまった。


 結城の笑顔がいつしか好きになっていた。


 デートの時はいつも私の事を気にかけてプランを組んでくれていた。私を精一杯楽しませようと努力してくれていたし、私もそれを近くで見ていたから。


 生理中の私を気にかけて、何処か休める場所で一緒にお話ししたりするのも、暖かい飲み物をくれたりしたのも、優しさを感じられて好きだった。


 中学校から高校に上がって、金髪に染めた私は軽い目で見られていたからこそ余計に私の体や見た目じゃなくて、私自身を見てくれる結城の事を好きになってしまった。


 思い出が滝のように溢れて、そして、最後には昨日の言葉が蘇って私はまた胸が痛くなるのだ。


「もしそうだったのなら、お前は意思なんてない、ただの海藻のようにふよふよと生きている人間ですらない何かなのだろうな。お友達に言われたからやりましたー、誰かに言われたからやりましたー。みんながそういうからー。そうやって流されて僕の目につかないどこか遠くに行ってくれ」


 私は幼いころから他人に追従するような自我がない人間だった。まさに海藻のようにふよふよと漂う意思のない、何もない人間だった。


 そんな自分を変えたくて、金髪にしてメイクを覚えて少しでも自分という物を持ちたくてそうしたけれど、見た目以外は何にも変わっていなかった。


 だって結局は、周りに流されて結城に罰ゲームで告白なんてことをしているのだから。


 だから....

 

「別れましょう。あなたと過ごした日々は最悪でした」


 こう言われても仕方がないのだ。


 私と過ごした日々さえ、あの笑っていた時間さえ、私のくだらない嘘告白のせいで結城にとって最悪な思い出になった。


 だから、私は振られても仕方がない。


 仕方がない。


 仕方がないのだ。


 私には過ぎた人だったという事だ。


 何度も自分に言い聞かせるけれど、また思い出しては心が痛くなる。


 このループから私は抜け出せそうにない。


 


 

 


 


  

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