第10話 楽しいお友達ごっこ
「話したいことがあるんだけれど」
結城の目の前に立った綾香のお友達はそう言い放ったが、結城は心底面倒くさそうな眼でそのお友達を見た。
朝から、夢に悩まされたのに今度はこいつか。
今日は厄日か何かなのだろうかとそう思いはしたが、よく考えればこいつの話を聞く必要もないと思った結城はそのまま無視して鞄から英単語帳を取り出して、小テストのための復習を始めた。
その様子にお友達さんは怒ったのか、結城から英単語帳を取り上げてそのまま結城の机に大雑把にバンと置いた。
「話があるって言ってるんだけれど?」
これだから女はとか時代的にどうなんだと思う感情を抱いたが、これ以上無視すると更に面倒臭いことになることは昨日で学習した結城は、仕方なく聞くことにする。
「何でしょうか?」
「おまえ、綾香に何したの?」
こいつは何を言っているんだろうと結城の中で疑問に思う。
だって、結城は何かをしたわけじゃない。ずっと嘘告白で騙され続けてきた側なのだ。
何かされていたのは結城の方である。
「何もしていませんよ」
「何もしてないなら、綾香は泣いてないんだけれど」
強く言い返すお友達さんに、結城は変わらずの対応を続けた。
「だから、何もしていません」
「嘘つくなよ!!」
バンっとまた大きな音を立てて、結城の机を叩いた。
いつの間にか教室が静寂に包まれて、誰の話し声も聞こえない。ただ、じっとその様子を見るクラスメイトの視線だけがそこにあった。
結城はうんざりして、大きくため息を吐いた後、
「本当に何もしていません。ただ、話し合っただけです」
「話し合ったって何を?」
「別れましょうと話しただけですけれど?お互いにとって良いことでしょう。だから、僕はずっと何もしてないって言ってるんです」
そう言うと、そのお友達さんはキッと睨みつけた。
「それだろ、そのせいに決まってるじゃん。お前から綾香を振ったから」
「何がですか?それでなんで僕のせいになるんですか?僕は嘘告白をされた側なのに」
結城はお友達さんの激怒をどこ吹く風で、そのまま話を続ける。
「いいじゃないですか。何が問題なんですか?もしかして、嘘告白された僕が悪くなるんですか?」
「それは」
「お前らの趣味の悪い遊びのせいで被害を被ったのは僕の方なんですけれど。お友達ごっこがしたいのなら僕を巻き込まずにしてくれませんか。不愉快で仕方ないんですけれど」
淡々とそういう結城に、更に怒りが募るお友達さんだったが結城の言葉に何も言い返せず、唯一言い返せるところに嚙みついた。
「お友達ごっこなんかじゃない!!そういうところ、キモイんだよ」
「あぁ、そうですか。ならいいですね。僕もあなたたちの事が心底気持ち悪いと思っていたんですよ。関わらなくて良くなったので、これもお互い良いことですね」
結城はそれだけ言うと、先ほど叩きつけられた英単語帳を手に取って勉強を始めた。
その様子にまたイライラしたお友達さんだったが、なんにも言い返せなかった。
「きしょ」
と苦し紛れにそう言って戻っていくお友達さんを見もせずに、勉強を続けた。
相変わらず教室は静かなままだった。
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