第4話 お前はいつも直球すぎる
結城が車から外を眺めると海が見える場所まで来ていた。
ここは某温泉街の近くであり、夢と恭介が昨日話して決めていた某温泉街である。
「結城君、ここ等へんはきたことある?」
「いえ、ありません」
「そうか。俺も人に教えられるほど来てはいないから楽しみだね」
「そうですか」
結城は相変わらず外を向いて、冷たく話していることをルームミラーで確認した恭介は、気にした様子もなくそのまま車を走らせ続ける。
「結城君、せっかくの旅行だし私と一緒に楽しもうね」
「楽しめるといいですね」
「そうだねー」
結城の冷たい反応を異に返さず、夢はそのまま結城に話しかけ続けた。
結城の機械的な態度と、夢の間延びした話し声が何ともあべこべで会話が成立してはいない気もするが、夢にとっては会話の成立よりも、結城がここにいるんだという事を成立させるために話しかけていた。
*****
「はぁー疲れた。結構、色々なところ行ったねー。それに偶々部屋も取れたからよかった。キャンセルしてくれた人に感謝だね」
朝から夕方まで、温泉街を観光していた結城達は昨日の夜に予約していた旅館へと来ていた。
平日な事と、予約がキャンセルされたこともありそこそこいい旅館に泊まれたようで、夢は嬉しそうに部屋の内装を見ている。
和室で落ち着ける雰囲気であり、外を眺められる広縁が作られており、夢はその席へと腰を下ろした。
「ねぇ、結城君。対面の席空いてるよー?」
そう言って夢は席を指差した。
そこに座って欲しいという事だろうと察した結城だったが、夢の言葉を「イヤです」とバッサリ切って恭介が座っていた客室の座椅子の対面に座る。
「まぁ、いいけれどねー」
気にしていませんと装いつつ、スマホを触る夢だったがちらりと結城の方を見てはスマホを見るという事を繰り返していた。
恭介はその様子を見て、席を立った。
「夢、結城君。ちょっと僕は館内を見てくるから二人でゆっくりしていなさい」
そう言って、二人の返事も聞かずに部屋の外へと出て行った恭介。
無言の間が場を支配するが、破ったのは勿論夢の方だった。
「結城君はさ、今日の旅行楽しかった?」
そう聞いてきた夢に対して、結城はどうこたえるか悩む。
楽しくなかったと言ってしまったら、無理やり連れだされたとは言え、恭介の服を貸してもらって、宿代まで恭介に出させている為、失礼だと思ったのだ。
だが、結城の中で何かが完全に壊れてしまった時から、夢がいるだけで結城の気分はあまりよくない。
だから、結城はこう話した。
「新鮮でしたね」
「そっか、それならよかったよ」
結城はここへと来たことがないし、今まで女性とのデート等ではプランを全部考えて相手が楽しめるように最大限尽くしていた為、ただ付いていくという事も今まででほとんどなかった。
だから、結城は新鮮だったとそう答えた。
結城のその反応にニコリと微笑んだ夢は外の景色を眺め、また話始める。
「結城君はさ、私の事苦手なんだよね」
「そうですね」
結城の返しにただ「そっか」とだけ返して、話し続ける。
「別にいいよ。苦手でも。でも私は結城君の事を嫌いじゃないし、好きだなぁーって思ってる」
何でもないように夢はそう言った。
「そうですか」
夢の言葉に結城はそれだけ返し、また場が静まった。
「だから、私はずっと結城君の傍にいるよ」
ぽつりと放った夢の言葉。
結城はその言葉に反応し、夢へと冷たい目線を向けた。
「別にいいですよ。聞き飽きました、その言葉。心底、どうでもいいです。誰一人その言葉を守れる人なんていないので」
結城のそんな冷たい氷柱のような鋭さを持った言葉さえ、夢は何でもないようにこういうのだ。
「そうなんだー。じゃあ、私が一番目だね」
夢のどこまでもマイペースな態度に結城は、更に追い打ちをかけた。
「そうは言いますけど、どうやってそれを説明するんですか?」
と興味なさそうに、一切の関心を持たずにそう問いかけた。
「うーん、今すぐには無理かな。ずっとこれから先も私は結城君の傍にいて証明し続けないといけないし。だから、結城君は私の事を、死ぬまで信用しなくていいよ。結城君が死んで初めて証明されることだし」
夢は、さも当然のようにそう言った。その後に付け加えて、「えーでも、私は見送られたい派だから。私の方が先に死にたいなー」なんて呑気な事も付け加えて。
結城は今までずっと一緒だとか、信用してだとか言われ続けてきたが夢のように信用しなくていいと言われたのは初めてだった。
だが、結城の中で壊れた何かのせいでその言葉を上手く処理できずにエラーを吐いてしまい、咀嚼できない。
何も言えずに結城が固まっているとそこに恭介が帰ってきた。
「おかえりー、お父さん。館内でお土産とか買える?」
「お土産はもう十分買ったし大丈夫だろうに。それよりも館内の庭園が綺麗だったよ」
「えー、後で行こうかな」
二人が話を進めているものの結城は未だうまく言葉を飲み込めていなかった。言い返そうと思ったが何も言葉が出てこない。
その後、ご飯を食べてお風呂に入って寝る前になってもそれは変わらなかった。
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