22日目 光の道 〜祠の消滅、星を渡る足元〜
在庫/二十二日目・朝
・水:0L(継続)
・食:干し藻 ごく少
・塩:微量
・火:炭片わずか
・記録具:ペン 使用可
・体調:渇き極限/視界霞み/歩行にふらつき
・所感:島は消えた。制度を背負い、光の帯を進む
足元に残ったのは海でも砂でもなかった。
淡い光が糸のように編まれ、水平線の向こうへまっすぐ延びていた。
足をのせるたび、じんと痺れるような感覚が脛を這う。次の瞬間には支えられていた。
「道、なの……?」
声が海風に呑まれる。
けれど確かに私は沈まなかった。
ただし一歩ごとに背後が消えていく。
振り返った島はもう、夜の帳に飲まれた影の塊にしか見えなかった。
観測/午前
・光:足元に帯状。波間から立ち上がり空と接続
・星:指差された方向、光の帯と一致
・海:周囲は濃い闇。波の音は聞こえるが、視覚的には沈黙
・潮の人:姿なし。応答なし
・影:測定不可能。基準物が消失
渇きは増す。
祠の水を飲むことすらできない今。唇はひび割れ喉は砂を噛むように乾いた。
干し藻を噛んでも塩気が逆に渇きを煽る。
それでも進むしかなかった。
私は帳を開き、余白に書く。
《光は沈まない。だが制度に記せるかは不明。》
字が揺れて滲む。
手の震えか光の痺れか。
境界が曖昧になり制度そのものが空気に溶けていく。
昼。
光の帯は太陽に照らされてなお輝きを失わず逆に濃度を増した。
海は黒い布のように静まり返り鳥も魚影も見えない。
孤独が音を食い尽くす。
私は歩みを止め深く息を吸う。
だが、吸い込んだのは潮の匂いではない。鉄のような冷たい気配だった。
「ここはもう、海ですらない」
言葉が宙に漂う。
返す声はない。
観測/午後
・光:安定。ただし歩行距離に比例して痺れ増大。
・体:脱水の進行。意識の飛び。
・帳:紙端に光の反射。記録具に異常はなし。
・所感:制度が舞台を失い空間に滲み出している。
夕刻。
空の星が少しずつ現れ始める。
昨日、潮の人が指差した方角に確かに光が集まっていた。
だがそれは「導き」か「罠」か判断できない。
私はペンを握りしめ余白に太く書く。
「水:0。制度の残高も0。
それでも記す。光を一歩ごとに、記す。」
在庫/二十二日目・夜
・水:0L(継続)
・食:干し藻 わずか(消費)
・塩:微量
・記録具:ペン 使用可
・所感:島は影に沈み輪は消えた。光の帯を歩み始めた。まだ沈まない。
夜が落ちる。
足元の帯が星の川とつながって見えた。
私は震える手で一行を加える。
「光は、星と同じ。罠か道かは不明。
だが、歩けば確かに“残る”。」
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