21日目 出立の朝 〜制度を越えて、光の帯へ〜
在庫/二十一日目・朝
・水:0L(祠消滅)
・食:干し藻 ごく少
・塩:微量
・火:炭片わずか
・記録具:ペン 使用可
・体調:渇き極限/視界霞み/動作鈍い
・所感:制度が舞台を失った。島は沈黙。光へ進むしかない
夜明け。帳を開く。
「水:0」の文字が並んだ。
昨日と同じ、しかし昨日以上に重い。
ゼロを書くという行為はただの数字ではなかった。
それは命の残量を削り取り祠の死を突きつける墓標だった。
ペン先が紙を叩くたびに胸の奥で砂が崩れる音がする。
二十日間、毎朝必ず書き込んできた在庫表。
呼吸のように続けてきた制度の習慣がついに「無」を記した。
祠はもう存在しない。
裂け目は干からび口を開けた黒い傷口だけが残っている。
泡もなく澄みもしない。
ただ砂がぽろぽろと縁から落ち底の闇に消えていくだけ。
昨日まで「濁流」と呼べたものが今は「沈黙」と呼ぶしかない。
島全体もまた死んだようだった。
鳥は一羽も姿を見せない。
杭の影はまだ朝なのに長く夕刻のように伸びている。
砂の輪は崩れ、印石は波に埋もれ、跡すらも薄れていった。
ここで積み重ねてきた制度の舞台がすべて剥がれ落ちた。
沖に潮の人が立っていた。
彼女は手を胸に当てゆっくりと頷くだけだった。
記号も描かず声もなく。
その仕草は別れの挨拶のように見えた。
「もうここでは、生きられない」
その意味を告げるかのように。
干し藻を布に包み塩の粒を添えて小さな荷を作る。
帆布片で帳をぐるぐると巻き水を防ぐように縛る。
ペンを胸に差す。
島で作った最後の制度を背負い私は砂の縁へ立った。
足を水に入れる。
沈むと思った足は不思議にも支えられた。
波が細く張り詰め進むための道を形づくっていた。
見上げれば昨夜彼女が指した光の帯。
今も白く細い線が空に残り水平線の先を貫いていた。
所感:
「制度はここまで。祠は死に、輪は崩れた。
だが帳はまだ残っている。
光が罠でも道でも、進むしかない。」
在庫/二十一日目・夜
・水:0L(継続)
・食:干し藻 わずか
・塩:微量
・記録具:ペン 使用可
・所感:島は沈黙した。背後に影も残らない。光を歩む
星空の下。
光の帯の上を一歩、また一歩と進む。
振り返ると、島は影に沈み、存在しなかったかのように消えていた。
胸に抱いた帳を開き震える手で最後の一行を記す。
「島は終わった。記録は続く。
光は罠か道か、それを記すのが次の制度だ。」
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