13.5話 執事と当主
セイラスが“魔法のようなもの”を使った――そんな報告を聞いた。
もしかしたら、発見時に吐血していたことと関係があるのかもしれない。
そう思い、私は執務室に籠り、魔法や魔力に関する本を片端から読み漁っていた。
夜更け、ページを繰る音だけが静寂の中に響く。
──コン、コン。
「何だ?」
「私です。デザフです。セイラス様の件で、お話したいことがございます」
セイラスの名を聞き、すぐに本を閉じた。
「入れ。話してくれ」
「はい。先日セイラス様は魔法のようなものを使ったそうですね。それはおそらく魔法で間違いありません」
驚いた。
魔法を使えないと思っていたセイラスが使ったと断言したのだから。
「貴方のお父上であるエルントス様も魔法を使うと吐血をされていたんですよ」
知らなかった。父上が魔法を使っているところを見たことがなかったから。
「私達はなぜそうなるのか研究をしました。そして一つの結論に至った。それは魔力量が極端に多いものは喉から魔力を放出する人類の魔法体系に合わない。」
「どういう意味だ?」
「おそらく、セイラス様は多すぎる魔力で喉を壊さないようにするために体がブレーキをかけているのだと思います」
「確かに高位魔法使いの中でも最上級魔法を使うことができる者たちは喉が弱いという噂を聞いたことがある」
「その方たちにも研究に協力してもらいました」
なるほど確かに最上位魔法使いは年齢で言うと父上と同世代の者たちが多い。
「それで、どうすれば喉を潰さずとも魔法を使うことができるようになるんだ?」
「それは、おそらく心のなかでとても強く願うことだと思います」
「おそらく?」
「はい。わたしたちの研究では成功しませんでした」
「ならなぜできないと言わない」
「伝説級の魔物が無詠唱で魔法を使うからです」
「あの子にできると思っているのか」
「はい。確信しております。それにあの子自身魔法に興味を持っていますよ」
「どういうことだ」
「見えたんですよ。魔法を唱えようとしたものが発言する光を」
意味がわからなかった。
「どこで魔法の存在を知った? 私は遠ざけていたはずだ」
「さあ? ですが、あの方が魔法の道に進みたいといったときにはぜひ応援してほしいのです。成功すればきっと最高の魔法使いになると思いますから」
魔法を使えるとわかった今、魔法を隠すこともできない。
だが、恒常的に使えないというのが問題だった。
なので一つ課題を出すことにした。
「デザフ、セイラスを呼べ。魔法の存在を教える。それと、学園入学までに魔法を一つでも恒常的に使えるようになったら魔法使いの道を応援すると伝える。それでいいか?」
デザフは嬉しそうに笑いながら
「はい。魔法使いの教師は私に任せてくださいね」
アルドリックは短いため息をする。
この日、一人の少年が“魔法使い”として歩み始める。
それは運命ではなく、必然だった。
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